第12話 東の中卒探偵、第二の事件解決(※経費です)。


 深夜。俺は自然と目を覚ましていた。


 何かがおかしい。


 身体を起こそうとしたが、身体の自由が利かない。動くのは首から上。


「……金縛りってやつか?」


 声は出る。

 顔は動く。

 でもやっぱり、他の部位は機能を失ったかのように動かない。


工藤くどうくん、この探偵事務所……夜……出るんだよね』


『幽霊』


 佐藤さとうさんの言葉が脳裏をよぎったその時、左隣から気配を感じた。


(まさか……)


 俺が首を左に回すと、何と、そこには老婆が仰向けになって寝ていた。


 その顔は紙のように白く、しわだらけ。白髪を後ろで束ねた老婆だ。


 老婆はゆっくりとこっち側に首を回して、俺に向かって微笑んだ。


 河童とか西の中卒探偵に比べたら、幽霊なんて別に……とか。


 塩さえあれば充分……とかイキッてたけど……。


 実際に対峙したら声も出ないほどの驚きが俺を襲っていた。


「こんばんは」


 老婆は弱々しい声で言った。

 俺は引きつった顔で愛想笑いをするのが精いっぱいだった。


「あのさあ、あなた、お名前は?」


「あの、えっと……工藤くどうです……」


 顔を逸らそうとしたが、もう首から上さえ動けない状態になっていた。

 できることは、喋ることのみ。


「ポテト……」


 突然、老婆が言った。


工藤くどうさんとやら……あたし……フライドポテトが食べたいなぁ……」


「は、はあ……」


「悪いんだが工藤くどうさんや。ちょっと今からポテト買ってきてくれないかね?」


 ……なにこの展開。


「ええっと……おっしゃっていることがよく……」


「ああすまない。サイズはL」


 いやサイズじゃなくて。


「今なら、LサイズでもSサイズと同じ値段だからのう」


 知りませんし。


「Lサイズのポテトの箱を口の上でひっくり返して、『あー』って叫びながら、飲み込むように食べたいのう」


 喉につまりません?


「今は二十四時間営業だし、スマイルも無料ですぞ、工藤くどうさんや」


 スマイル関係なくね?


「あ、あの、買ってきてもいいですが……金縛りで身体が動けないといいますか……」


「あー、すまんのう。だったら今すぐ解除するから、走って買ってきて」


 意外と人使い粗いな。


 俺はアメリカの囚人カラー……じゃなくて、オレンジ色のジャージ姿で、近所のファーストフード店へ。


 そして佐藤さとうさんのクレカでLサイズのポテトを購入。

 店員のスマイルが突き刺さる様に痛かった。


「はあ……はあ……買って来ました……」


 俺が帰ると、老婆はベッドの上でお行儀よく座っていた。


「すまんのう、工藤くどうさんや」


 Lサイズのポテトを受け取ると、老婆は上を向いて口を大きく開いた。


 そしてポテトの箱をひっくり返して「あー」と言いながら口の中へ流し込むようにポテトを食べた。


 すると、


「おお、旨い旨い、塩が効いて――」


 グボッと、老婆が苦しんだ。


「ぎいやあああああああああああああああああああああああああ!」


 老婆は断末魔を上げ、しゅわーっと、白煙となって消え去った。


 たいへん、塩加減がよろしかったようで。



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Next、くどぅー、Hint→→→【Wi-Fi】


『ついに事務所のWi-Fi解放!』


『工藤のスマホが使用可能に!』


『くどぅー(工藤)がネットの有名人であることが判明するかも?』


『もちろん東の中卒探偵として、じゃないぞ!』


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