第9話 マーちゃん



「あ、工藤くどうくん、お疲れ~」


 パンパンになったレジ袋を右手に入ってきたのは、上下緑ジャージの女子。

 佐藤さとうマナカだった。


「ちょっと佐藤さとうさん! 聞いてないですよ!」


「何が~?」


 佐藤さとうさんは奥のデスクにレジ袋を置き、ゲーミングチェアに深く座った。


「いや何がじゃなくてですね」俺はデスクの前へ。「河童が来たり西の中卒探偵が来たりで、もう色々」


「あー、やっぱりそうなった? まあ妖怪が来たりするのは探偵事務所あるあるだし」


 そうなの?


「西の中卒探偵も来たんだね。全部マーちゃんの推理通りじゃん」



 ……マーちゃん?


「え? 佐藤さとうさん、マーちゃんって誰ですか?」


「だからマーちゃんだってば」


「いやだからそのマーちゃんって誰だって話なんですけど」


「だからマーちゃんだってば」


 え、何? 急にオウムになった?


「あのー、佐藤さとうさん。そのマーちゃんって人がですね、誰なのかって聞いてるんですけど」


 やれやれといった感じで、佐藤さとうさんはため息を吐いた。


「察しが悪いなぁ工藤くどうくん。それじゃ西の中卒探偵に勝てないよ?」


 いやさっき圧勝したとこだけど。


「マーちゃんてのは、工藤くどうくんの眼前に居る可愛い女子のこと。佐藤さとうマナカ、略してマーちゃん。常識でしょ?」


 何処の惑星の常識ですか。

 てか自分で可愛いとか言う人ホントに居るんだ。


「あ、あー、そういうこと……。佐藤さとうさんのことだったんですね……」


「そうそう。工藤くどうくんも、マーちゃんのことマーちゃんって呼んで良いよ?」


「いやー、俺は遠慮しときます……」


「ノリ悪いなあ。ま、良いけど。は~、それにしても買い出し疲れた~」


 佐藤さとうさんはゲーミングチェアの上で、うんと伸びをした。


「……佐藤さとうさん、それ何ですか?」


 俺はデスクの上に置かれたレジ袋を指さした。


「あ、これ? もちろん、頑張った工藤くどうくんへのプレゼント❤」


「プレゼント?」


「うん、給料は払わないとね~」


 佐藤さとうさんはレジ袋をガサゴソ漁って何かを取り出した。


「はい工藤くどうくん、金の延べ棒」


 支払い方が原始的すぎない?


「えーと、そのー」


 俺はズッシリとした金の延べ棒を確認。

 多分だけど本物だこれ……。


「いやー、そのー、佐藤さとうさん?」


「どうかした?」


 いやどうかしたじゃなくて。


「ちょっと少なかった?」


「そーいう問題じゃなくてですね。出来れば現金が良いカナ~なんて」


「あー、ゴメン。今ちょっと現金引き下ろせなくてさ。モノでしか払えないんだ」


「えええ?」


「まー良いじゃん。美味しそうだし」


 これを食べろと?


「仕方ない……。近くの質屋とかで換金するか……」


「あれ? 工藤くどうくん知らないの?」


「……何がですか?」


「十八歳未満は保護者同伴じゃないと換金とか出来ないんだよ?」


「……へ?」


 俺の時間が、ピシッと石化した。


「だから食べるしかないよねって話❤」


 ニッコリと佐藤さとうさんは微笑んだのだった。

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