第31話 おもいでばこ、どれだけ使ってたんですか?

登場人物 聡美(視点) ひとみ 悟郎


無線LANルーターを設置してから、ちょうど一週間。

本来なら訪ねるには少し早い気もしたけれど、前回の訪問で預かった書類があったので、それを届けに再びひとみの家を訪ねた。


玄関を開けてすぐ、ひとみが言った。


「悟、失礼なことしなかった? あの子、ずけずけものを言うから」


「いえ、とても丁寧でした。物腰も柔らかくて」


「猫かぶってたのね。あの子、仕事柄人に教える機会が多いみたいで、説明は上手なのよ」


そこへ悟郎が、廊下の奥からやってきた。


「おまえが反抗的だから口調がきつくなるんだよ。聡美さんは素直に聞いてたんだろ」


「失礼な! 私はいつでも品行方正です!」


ふたりの掛け合いに、思わず笑ってしまう。


「無線LANルーターを設置した後、スマホの写真を取り込んで機能の説明を受けたんですけど……。覚えることが多くて、途中で切り上げちゃったんです。また今度、続きを教えてもらうことにしました」


「ふふ、気をつけてね? あれ、唐変木だから」


ひとみがにやにやしながら言った。


「……?」


「妄想だけなら自由なのよ」


「……??」


思わず首をかしげていると、悟郎さんがひとこと。


「おまえ、テレビの見過ぎだ」


「だって楽しいんだもん」


ふたりのやりとりに、また笑ってしまう。


気を取り直して、話を戻した。


「ところで、おふたりは『おもいでばこ』、どんなふうに使ってるんですか? 悟さんから、ひとみさんが驚くほど使いこなしていたって伺いまして」


「“狂ったように”、でしょ?」


ひとみが楽しそうに言った。


「ホントに狂ってたのよ、最初の頃は」


「寝ないで使ってた夜が、何回かあったな」


悟郎が少し呆れたように続ける。


「……何回か?」


「ええ、何度も。写真を取り込んで、並べて、アルバム作って……止まらなくて」


ひとみはそう言って笑った。

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