裁く悪徳、嗤う葬華、疑心渦巻くは七役の学級裁判

銀闘狼

第1話 プロローグ1

 なろうでも書いている奴です。

 《》内は技能判定結果だと思って貰えれば。因みに、システムはクトゥルフ神話6版

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 ■■が死んだ。


 アイツ等の下らない■■■の所為せいで、■■は独りで死んだ。


 私はそれを許さない。■■を■■■た【加害者】も、それを見て見ぬふりをした【傍観者】も、的外れな正義感を振り回していた【偽善者】も、


 そして、結局何も出来なかった【私自身】も。


 これは復讐償いだ。死ぬしかなかった■■の為に、私はこれから【罪】を犯す【犯人】になる。


 今更、止まらない。さぁ、これから【罪人】を選び裁く【学級投票】を始めよう。

――――――――――――――――――――――――――――――

 【私立隠巣桝インスマス総合高等学校】。


 海に近い某県にあるその高校は、正直に言って進学校と呼ばれる程高い訳でも、Fラン校と呼ばれる程低い訳でもない程度の偏差値が要求される様な、地元住民なら取り敢えず受けとくか程度に受験して、結果的に進学先の一つになる様な高校だ。


 【総合】と校名にある通りに、通常存在する様な授業の他にも、専門の手前程度の物もある為に、受けられる授業の種類が割と多く多岐に渡る故に、生徒自身が自ら受ける授業を選択し、上手く組み立てる事で各々が将来に必要な授業を受けられる様になっている。


 故に、就職する卒業生もそれなりにいる事も、この高校の特長の一つに挙げられるだろう。


 とは云え、それでもHRや共通する必修科目はある訳で、当然、それ等を受ける為の学年とクラス分けは存在していた。


 3-4。それが、今回の舞台となるクラスだ。


 クラスの生徒の人数は40人。……いや、今は39人だった・・・・・・・・か。兎に角とにかく、それがこのクラスに属する生徒の人数だ。


 2月も終わりに近付いたその日は、2月にしては暖かく、それ故か雪ではなく雨が、豪雨とまでは行かないが、それなりに降っており、風もあった所為せいで登校した時にスニーカーや制服の裾が濡れてしまっている。


 低気圧の所為か、鈍く軽い痛みが苛む側頭部を右手で押さえ、身体に見えない重りが纏わり付いた様な重圧と、天候だけでは無い憂鬱さで少女――【編手あみて 片理へんり】は机に突っ伏して半眼でぼんやりと机の先の床を見る。


 「……はぁ……」


 無意識に漏れた声は、これから受ける授業が怠いと言う……事もまぁ、あるが、それ以上の理由が、


 「なぁ、おい」


 上履き代わりの運動靴――少なくとも、この高校は昇降口で学校指定のそれに履き替える事になっている――で床を踏み鳴らして近付く足音が複数聞こえて、視界にその足音の主だろう靴が見えた所でそんな声が投げ付けられる。


 面倒な奴が来たと嫌々顔を上げれば、其処そこにはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた無駄にマスカラやピアスを付けた女――【喜多川 麗華】と、その取り巻きの四人の女子生徒がいた。


 【編手】は、どちらかと言えば廊下側に席がある【喜多川】が、態々わざわざ窓際に席がある私の所まで来てご苦労な事だ、と思いながら用件を聞く。


 「何?」

 「課題終わって無くてさ。代わりにやっておいてよ。当然、授業始まる迄にね」

 「断る。あんたがやってないのが悪いでしょ」


 【喜多川】の決定事項だとでも言う様な命令に、【編手】は気怠げに拒否する。すると、その態度に腹を立てたらしい【喜多川】が、【編手】の机の脚をやや強く蹴った。


 「ッ!」


 突っ伏していた故にある程度身体で固定されていた為に、机は大して動かなかったが、その分蹴られた衝撃は身体に来る訳で、胸の下辺りに痛みが走る。


 ぶっちゃけ、この様な世間の言う所の【いじめ】を受けている切っ掛けの理由は忘れたが、現在まで継続している理由は、今の様に抵抗しているからだろう。思い通りにならない事が余程気に食わないのだろうと、【編手】は冷めた眼を向けて思う。


 「お前に断る権利なんてねぇんだよ!じゃあ、ちゃんとやっておけよ」


 【喜多川】は、そう言って自身のノートで【編手】の頭をはたいてから机へと乱暴に叩き付ける。取り巻き共はニヤニヤと嗤っているだけなので、一応は自力でやったのか、あるいは【編手】以外のいじめの【被害者】にやらせているかなのだろう。


 【喜多川】が去っていく背中を見送りながら、追加された頭部のダメージに顔を顰めた【編手】は、頭頂部を擦って小さく舌打ちする。


 因みに、これまでに何度か同じ事があったが、一度たりともやった事は無い。……まぁ、それを口実にさらなる要求をして来る訳だが、もしかしたら、そっちが本命なのかも知れない。


 取り敢えず、ノートをどうするか考えながら、一先ずは手に取ろうとしていると、《ふと、何処かから視線を感じて辺りを見回した》。


 ……《しかし見付からない》。


 《更に注意深く見回して視線の主を探したものの、やはり見付けられず》、編手は気の所為だったか?と首を小さく傾げる。


 その辺りで、《新たにこちらに向かって来ていた足音に気付いた》。


 「大丈夫かい?」


 背後から聞こえた声に、【編手】は不快感に顔を歪ませる。直ぐに無表情の仮面を被ると、【編手】は声の方へと振り返る。


 「……えぇ、大丈夫。叩かれたダメージも案外無かったしね」

 「そうなんだ。でも、幾ら【編手】の対応がちょっと良く無かったとは云え、やっぱり叩いたり怒鳴るのは良くないと思ったよ。


 もし、先生に一人で相談したりし辛いなら、一緒について行ってあげようか?」

 「……いや、大丈夫。ありがとうね」


 声を掛けて来た男子――【上縁うわべ 正義まさよし】に、【編手】はどうにか苦笑と心配して貰った事への感謝の言葉を返した裏で、腹の底から湧き上がる嫌悪感を表に出すまいと抑え込む。


 ぶっちゃけ、面はクラスの中では上から数える位には良いし、文武もどちらも良い。性格も、いじめられている者に態々話し掛けて心配している程度には少なくとも表面上は・・・・・・・・・良いのだろう。


 だが、【編手】はその性格・・の部分から、【上縁】の事を酷く嫌悪していた。それこそ、幼稚で下らない加虐性を振り撒き、差し向けてくる【喜多川】と其の取り巻き以上に。


 諍いの最中には我関せず焉としておきながら、それが終わったと見るや心配する振りをして敗者と判断した者を慰める素振りを周囲に見せ付ける。


 それをしても自身に火の粉が降り掛からない事を内心で理解し、矮小な自尊心と独り善がりな正義感を満たす上辺だけの言動は、【編手】にとって唾棄すべき行為であり、今も湧き上がる吐き気と悪態を必死に抑えていた。まだ、そこら辺のこちらを見る【傍観者】の方が余っ程にマシである。


 「本当に大丈夫?そう云えば、さっき誰かを――」

 「お前等ぁ〜、そろそろ席に着けぇ〜」


 その時、ガラガラと小さなタイヤの転がる音を立てる引き戸を開けて、廊下から此のクラスの担任である【宮内くない 悟郎】が独特な伸び方をする声を出して教室に入って来る。


 正面の黒板やらスピーカーやらが取り付けられている壁の右上にある時計を見れば、HRが始まる5、6分前位の時間だ。


 立っていたり、自身の席から離れていた生徒達が各々の席へと戻って行く。


 「よぉ~し、全員席に着いたなぁ〜。それではホォ~ムルゥ〜ムを――「キヒッ?」なんだ?」


 教卓の後ろに立つ【宮内】の本来よりも1、2分程度早いHRを開始する言葉の途中で、耳障りな高い、子供の声に不快感を足して悪意のエッセンスを加えて混ぜ合わせた様な奇妙で、少なくとも高校の教室には不釣り合いな鳴き声にも似た声が【編手】の耳に聞こえた。


 【編手】は、その声が《【宮内】から聞こえた様に感じた》が、《明らかに【宮内】が発した声では無いだろう事も感じていた》。


 それは、どうやら他の生徒や【宮内】にも聞こえていたらしく、ざわついた雰囲気の中で、【宮内】や音の発生源が分からなかった者は周囲を見回して音の発生源を探り、音の発生源を聞き取った者は【宮内】の事を見ていた。


 キーン、コォ゙〜ン゙、ガァ゙〜〜ン゙、ゴォ゙〜〜ン゙


 スピーカーからHRの開始時間を告げるチャイムが鳴り響く。


 それは直ぐに歪む様に奇妙な反響と不協和音と伴う物へと変化し、神経を逆撫でる様に引き伸ばされたチャイムに、無数の羽虫の羽音にも似たノイズが混ざり出す。


 チャイムが唐突に途切れる。


 『ザザッ、プツッ。……只今より、3−4学級投票を開始します』


 マイクが繋がる短いノイズの後に、無機質な抑揚の無い中性的な声が告げる。


 「グヒッ」

 「な、ウグッ!?」


 再び、子供じみた高い声が聞こえる。今度は【宮内】もそれを聞き取ったのか、或いは、それ以外の何かを感じ取ったのか背後を振り返ろうとして、短い呻き声と共に身体を一瞬ビクリと震わせると暫し硬直し、脱力して一度教卓に覆い被さる様に突っ伏すとそのままズルリと教卓の後ろへと滑り落ちて姿を消す。


 【編手】は、【宮内】が教卓の裏に消える直前に、《その背中に乗る様に片手でしがみつくボロボロのレインコートの様な物を着て、フードを目深に被った何かがいた事に気付いた》。


 スピーカーからはその間にも、奇妙な音律の不協和音じみた何かが流れており、何故かそれを聞いていると脳を直接揺さぶられる様な感覚が襲って来る。


 不味い!!と感じた時には遅かった。脳を蝕む様な様々な痛みが襲い、視界も激しく揺らいで動く事が出来ない。


 やがて、視界が暗い闇への沈んで行くのを感じながら編手は意識を失った……。

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