【加筆修正版】塔の上のダリア
玄道
魔女──Witch
神奈川県川崎市のタワーマンション。
その最上階に一人の女と、娘が住んでいた。
娘は女が自分の母親だと信じていた。父の顔は知らず、一枚の写真も残っていない。
女は、いつも豪勢な食事を娘に手作りし、丹念に身体をケアしていた。
──可愛いダリア 私だけのダリア 早く大きく 美しく 私の望む通りの娘になるのよ──
女はダリアにテレビやラジオ、ネットを決して与えず、ダリアに外の世界を見せなかった。
ダリアは女から、部屋の外にはとても恐ろしい怪物が
四月のある日、女は一人の少女を連れて帰ってきた。
ダリアは驚いた。外にいるのは怪物の筈。この少女はどうして襲われなかったのだろうと。
少女も驚いた。家出した少女を拾った女は独身だと聞いていたからだ。
しかし、女は流れるようなソプラノで言った。
「
その口ぶりが余りに自然だったので、親類なのだろうと、少女はすっかり信じ込んでしまった。
実際、女と『姪』はよく似ていた。
ダリアには『めい』という単語が分からなかった。そもそもそんな言葉は習っていない。ダリアは怪物のお伽噺しか知らなかった。
「ダリアちゃん、今晩は。私、
少女は微笑みかけた。ダリアはきょとんとした顔を浮かべて、すぐに微笑み返した。
一週間ほど三人の生活が続いたが、叶子は忽然と姿を消す。
その晩女は豪華な晩餐を作って「叶子のお別れ会よ」
と言って珍しく飲酒した。
叶子の後にも八人の様々な年頃の女性がダリアの前に現れては、すぐに去っていった。
そんな暮らしが続いた。
いつしか女は少し濁った白い椅子を二つ拵え、二人はそれに腰掛けて寛ぐようになった。
ある日の事。
女の部屋に二匹の怪物が現れた。
怪物は女と玄関先で話し込み、小さな板を取り出すとそれに向かって話し始めた。
それから間もなくして、たくさんの似たり寄ったりの姿をした怪物が部屋に押し入ってきた。
「
ダリアには事態がさっぱり飲み込めなかった。
やがて美奈子と少し違う花の香りを
怪物は一目を
「こんな小さな子になんて事を……この悪魔!」
美奈子は暴れながら絶叫する。
「ダリアを、私のダリアを返して!」
怪物の指を噛みちぎって、ダリアを怪物から奪い返そうとした所で、大きな音が鳴り響き、美奈子は倒れ伏した。そして黒々とした血が流れ出す。
血の泡を吐きながら、美奈子はダリアに囁く。
「ダリア、たと、え私がい……なくなっ、ても、あ……なた、は私の……む…………」
そうして魔女は、ダリアに呪いをかけた。
ダリアは、初めて外の世界に出た。
そこには、怪物などいなかった。
ダリアが、今まで魔女と暮らしていたに過ぎなかった。
ダリアはそれまでの暮らしを全て忘れるように、治療を受けることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます