恵×陽菜 1話

陽菜視点

 「ただいまー」

 扉の開く音と同時にこの世界で最も愛しい声が聞こえてくる。

 「おかえり、けい」

 私、氷室陽菜(いずれ不知火になる予定)と声の主、不知火恵(しらぬいけい)は同じ大学に通う同級生(大学二年次)で、同棲をしている恋人同士である。

 彼は幼い頃から私のピンチを救ってくれるヒーローのような存在で、高校生のとき、私とお母さんが元父の借金のかたに売られかけた際、彼によって助けられたことをきっかけに付き合い始めた。

 私やお母さんの恩人であり、一生をかけて恩返しするつもりでいる。まあ文字通り一生離れる気は全くないのだが。


 バイト帰りの彼は服を脱ぎ、浴場へと向かう。そんな彼の腕に抱きつき、止める。 

 「久しぶりに一緒に入ろ♡?」

 「1日空いただけじゃないか」

 恵は苦笑いとともに腕に抱きついている私の頭を愛おしそうになでてくれる。

 出会った頃や付き合いたての頃はあまり感情を表に出さず、表情も豊かではなかったが、今では多少は表情や言葉に出してくれるようになった。ますます大好きになってしまう。かくいう私も付き合うまでは丁寧語を使っていて、距離感があったわけだが。

 「洗わせてもらうわね」

 浴場に入ってまず、彼の体を洗う。最初の頃は恥ずかしさのあまり爆発しそうになっていたが、慣れというのは恐ろしいもので、お互い当たり前のように裸で同じ空間にいることができるようになった。それでも、いつ触れても彼への想いは留まることを知らない。

 初めてしたときの幸福感は今でも鮮明に思い出すことができる。安心感のある背中、暖かな腕の中、慈愛に満ちた優しげな表情すべてが私の心に刻まれている。

 そんなことを思い出しているうちに、お互い体と頭を洗い終わって、湯船に向かい合って入る。

 「けい、好き♡」「俺も好きだよ」

 好意で溢れてやまず、数分も経たないうちに彼に正面から抱きついてしまう。彼はそんな私を受け止め、抱きしめながらそんなことを言ってくれる。

 私がこんなに男の人のことを好きになるとはほんの数年前まで想像だにしなかった。

 まあすべて魅力的すぎる上にとんでもなく優しくてカッコ良すぎるけいが悪いよね♪

 けいの腕の中で、ますます速くなる鼓動の理由をすべて押し付けて、彼との二人きりを噛み締める。

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オ◯ニー地産地小説 ミスターA-K @araikeita

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