3回話しかけると最強武器をくれるタイプの村人
蟹ハジメ
第1話 暇な人は話しかけてください
はじまりの街の入り口、東西南北4つある大きな門のどれかに毎日必ず出没する男がいる。
誰も名前を知らない、容姿もいたって普通の男は、街に新しく来た人間に必ずこう話しかけていた「はじまりの街へようこそ!」と。
「はじまりの街へようこそ!」
「うわっ! いきなりなんですか!?」
今日も男は夢と希望を胸にこの街へやって来た新人たちに同じ言葉を投げる。一年365日、ずっと変わらずに。毎日、毎日。
そんな風だから、男はこの街の人々から嫌われていた。その行動の奇妙さもあるが、一番の要因は容姿の変わらなさにある。
一年後でも十年後でも、男の容姿は変わらなかった。ただそこにあり続けた。
人は自分と違いすぎるものを拒絶し、迫害する。中世の魔女狩りのように宗教的な要因はなくとも、なんだか気味が悪いと言う態度で卵を投げつける。
なぜこの男は同じ言葉しか喋らないのか。奇妙な上に、どこからどう見てもただの村人にしか見えないこの男に何度も話しかけるメリットはない。
だから誰も気付かない。この男に3回話かければ、最強の武器がもらえるという事に。
この街にやってくる人間は大抵が転生者だ。この世界で自分こそが主人公なのだと、今度こそ輝かしい未来があるのだと信じて日々冒険に明け暮れている。
だから男を初めて見た人間は必ずこう疑う。「この世界は何かのゲームの世界なのではないか」と。だが、男の存在以外にゲームの要素を感じられる部分は誰も見つけられなかった。
そうして、もしかしたらと期待ていた人々は、紛らわしい行動をする男に敵意を抱き、日常的にうっぷん晴らしをしていくようになるのだ。
「今日も卵を投げつけられた。やれやれ、投げつけるなら顔にしてほしいね。じゃないと口に入れられないじゃないか」
服についた複数の黄色いシミ、ネバついたその感触はタマゴがしっかりと浸透している証拠だ。木製のタライに水を張り、ごしごしとこするのが男の日課になりつつある。
「まあ、この前の石よりはマシだな」
服を洗いながら男は思った。このまま続けていても3回話しかけてくれる人間になんか出てこないのではないかと。
もうあと数年もすれば魔王が暴れ出し、対抗するすべを持たない人間は滅ぼさてしまうだろう。
「何か方法を考えないと」
この家のボロイ壁に似つかわしくない雷を模した槍『神の怒り』。この最強武器を渡すことができれば、魔王だろうがなんだろうが跳ね除けてしまうことが出来る。それは断言できた。
だが、それには誰かが男にに3回話しかけなくてはならない。それがこの世界のルールなのだ。
布の服についたタマゴは殆ど綺麗に落ちた。男は濡れたままの布の服をしっかりと搾るともう一度着なおし、最強武器『神の怒り』を持って家の外に出る。
昼間は門の前から動けない。だから食料調達には夜行くしかない。
男は発光する最強武器をボロ布で包み、慣れた様子でうまい事近くの門を抜ける。そして、月明かりの下、すぐ先に見える森の中に姿を消すのであった。
翌日、男の服には赤土で『暇な人は話しかけてください』と書かれていた。果たしてこれで効果は上がるのだろうか。
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