俺の中の『天使』と『悪魔』

なゆお

第1話

人には、良い心と、悪い心がある。

それは、人によっては、大きかったり、小さかったりする。

よく、良い心と悪い心を『天使』と『悪魔』という表現をする。


『おい!ここは我慢せず、ジュースを買えよ〜』


『ダメですよ!土曜日に貯めて、パー、と使う予定では無かったんじゃないですか!』


『そんなの気にせず、目の前のご褒美を取るんだ』

『ダメです!』



『『ムムムムムムム!!』』



そう、そんな『天使』と『悪魔』が、俺には見えているのだ。



時は遡り、高校入学の時。


これからの高校生活や、寮での暮らし。そして、念願の友達と彼女を作ることに胸を踊らせながら、初めての寮での1日を過ごした翌日。





『よう!おはよう!いい朝だな!』


『おはようございます。今日も元気に頑張りましょう!』


「…は?」



『天使』と『悪魔』が見え始めた。


どうやら、他の人には見えないらしい。

それに、何故か心の声が聞こえるらしく、何か迷ったりすることがあれば、コイツらが決まって話しかけてくる。


俺は、ソイツらの意見に従っている。


心の声が聞こえるのだから、俺がしたい事とかやりたいことを言ってくれてるのだろう。


まぁ、大抵天使の言うことを聞くが。



「ダメだ。土曜に貯める!」


『ちぇ、つまんねぇの!』


『それでいいんですよ!』


「まぁ、土曜日の為だからな」


「お前、最近独り言多くなったよなぁ」


「おぉ、太一。調子はどうだ?」


「昨日、バスケでやらかしてなぁ、肩がいてぇ」


コイツは太一。高校に入ってから仲良くなった。

とても優しくて良い奴だ。


「バスケ部だっけ?」


「まぁな、エースの素質あるって言われても、流石に3年の練習に付き合わせるのは違うだろ…」


「大変そうだな」


「そういうお前は、美術部だっけ?」


「そうだな」


「絵上手いのか?」


「いや、下手だ」


「おいハッキリ言うなよ…」


「絵は好きだ。ただそれだけだ」


「なんで美術部なんて入ったんだ」


「絵が上手くなりたいんだ。どうしても 」


「…なにか理由があるのか?」


「推しを描きたい」


「あっ、そ」


「なんだよ!絵が上手くなったらやるのはそれしかないだろ!」


「風景とか描けよ!」


「いや、描けるよ!一応!」


「じゃあ、人も描けるだろ」


「あのな、人と木の書き方なんて違うんだよ」


「え?葉っぱと人の髪の書き方なんて同じだろ」


「全く違うんだが?」


「※個人差あり」


「そうだけどな」


「なら、描けるよう頑張れ」


「そうだな〇ね」


「酷くね!?」





それから数時間後…。


俺は、絵を描いていた。


カーカーとカラスが鳴く。


「…」


ゲコ、ゲコ、とカエルが鳴く


「…」


ブーンブーンと耳の近くで蚊が飛ぶ


「…」


絵を描くのを辞めると、途端にうるさいのが無くなる。


「…」


「どうしたの?真広君」


「外のカエルとカラスと蚊をぶっ〇してくる」


「ダメだよ!? 」


コイツは、同じ美術部の桜だ。

この部活の体験で初めて会って、思った。

コイツ、絶対絵描くの上手い、と。

俺には何か、感じ取れる能力なのか、それともただの感なのか、そういうのがわかる。

俺はその成長が見たいが為、美術部にいる。

推し云々は、5割本当だ。



ちなみに俺の名前は真広である。

どうか、覚えていてほしい。


「もう、鳴き声とかうるさくても、流石に〇しちゃいけないよ!」


俺はそれを聞いて黙って筆を取る。

そしてキャンバスに筆を付けようとすると、


ミーンミンミンミーン!

カー!カー!

ゲコ!ゲコ!

ブーン!ブーン!

ギャハハハハハハ!

ピーポー!パーポー!

キーンコーン!カーンコーン!



「…」


「…どんまい」


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!」





放課後…。




「桜さん!好きです、付き合ってください!」



「ごめんなさい。私、あなたの気持ちに答えられない」


「…っ、そうですか、ありがとうございました」


そうして男子生徒はトボトボと帰っていった。


「…またか」


そんないつもの光景に俺はため息をつく。


「見てたの?」


「まぁな。それにしても、本当にお前ってモテるよな」


「…まぁ、結構ね」


「そんなんじゃ、いつか襲われるぞ」


「…」


「誰でもいいから、彼氏を作れ。嘘でもいいから、相手から近づかせないようにしろ」


「…そうだね」


「まぁ、一意見だから、余り気にするな」


「…ねえ、真広君は、私と付き合おうと思わないの?」


「は?」


「いや、私モテるからさ、そういう人ってあんまり見た事ないから…」


「付き合うとか、めんどくさいし、それに、俺はひとりが好きだ」


「…そう」


「ほら、駅前のドーナッツ奢ってやるから、早く行くぞ」


「いいの!?」


「あぁ、5個までだぞ」


「えへへ、ありがとう」






「…そういえば、土曜日に使う予定だったな」


桜にドーナッツを奢ってから、土曜日に金を貯めていたことを思い出した。


「どうしたの?」


「いや、気にしないでくれ」


「変なの」


「おっ、それ美味しそうだな。一口くれよ」


「ダメー、これは私のなのー」


「そうか、なら、俺のやつ食うか?」


「…食べる」


「ほら、あーん」


「あむ、うんうん。美味しい!」


「そうか、なら良かった」


「…真広君はさ、優しいよね」


「ん?別に?」


「お金、何か使う予定だったんでしょ?」


「いや、使わなかったかもしれなかったし、自分だけ幸せになってもな」


「そういう所が…」


「俺のはただのお節介だよ」


「違うよ、真広君は、ちゃんと私の事、見てくれてる」


「そこら辺の男どもよりはな?でも、俺よりも桜の事ちゃんとみてくれる人がいるかもしれない」


「…いないよ」


「いるさ。それこそ、彼氏とかな」


「彼氏いないよ?」


「これからの話だよ。俺じゃなくても、俺以外の人がみてくれる」


「…」


「大丈夫。俺も一緒に良い奴探してやるから」



「…そういう事じゃないのになぁ」


「ん?」


「私、真広君嫌い」


「え゛」


『そりゃそうだろ』


『あんな綺麗に的外れな事言うのは逆に凄いですね』


「酷い…」


「べ〜、だ!」








翌日。



「本当になんであんな事言われたんだ…?」


「お前、本当に言ってんのか」


「太一、どういうことか教えてくれよ」


「ダメだ、自分で気づけ」


「えー」


「あれ?噂をすれば」


見れば、桜がいた。


「でも、男と一緒だな。もしかして、またか?」


「…嫌な予感がする」


「え?」


「悪い、俺行ってくる」


そして俺は駆け出した


「…お人好しが」



後ろで太一が、呟いたのを聞きながら




「ねぇ、俺らと楽しいことしようよ」


「…なんですか?」


「ほらさ?彼氏もいない桜ちゃんに、楽しい遊びを教えてあげようかなぁてさ!」


「…最低」


「おっ、いいねぇ!その顔、好きだよ」


「…」


「お前ら、抑えろ。大丈夫。声をあげても、誰にもバレないからな」


「いや!」




「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「っ!?」


俺は男の顔目掛けて思いっきりドロップキックした。


「桜に手出そうとしたんだ。お前ら、分かってんだろうな」


そして、俺は話しかける。目の前の男たちと、


俺の中の、『天使』と『悪魔』に。


『『「死刑だ」』』










俺の中に『天使』と『悪魔』がいるからって、俺が強くなる訳ではない。


俺は、傷だらけになりながらも、桜の前で立っていた。


「く、クッソ、お前ら、卑怯だろ…、バットは」


「真広君…!」


「だ、大丈夫。お前は、助けるから…」


俺がフラフラと立つのも精一杯になっていた時。





「先生!こっちです!人が殴られてます!」


太一の声がした。


「太一、ベストタイムだ」


「生徒指導の、先生連れてくるの大変だったんだからな」


「それでも、助けに来てくれたんだろ?」


「まぁな、目の前のお人好しを見て、俺が引く訳にもいかないだろ」


「後は、頼んだぞ」


「分かってる。ゆっくり休め」


俺は、その言葉を聞いて、意識を手放した。












「…ん、」


目が覚めたら、そこには白い天井があった。


「頭いてぇ… 」


ゆっくりと起き上がるとズキズキと頭が悲鳴をあげていた。

そりゃそうだバットで頭を殴られたのだから。


「骨まではいってないようだけど、くっそいってぇなぁ」


「んー…」


「ん?」


ベットの隅を見ると桜が寝ていた。


それを見て、『悪魔』が囁いた。


俺は、何故かそれにしたがって、

桜の頭を、優しく撫でた。



「ん…。真広君?」


「おはよう。桜」


「…気持ちいい」


「怖かっただろ?」


「うん。私、怖かった」


「だからさ、俺でも良いなら、こうやって、慰めてあげるから、」


「…」


「ずっと元気でいてくれよ。それが、桜のいい所なんだからさ」


「…うん」


「ほら、分かったなら、帰れ。帰りも…」


「やだ。まだ、いたいし。それに、撫でられてたい」


「…分かった」



そうして桜を、ずっと撫で続けた。


「俺は、何してんだ…!」


あれからしばらくして、桜が帰って、撫でた手を見てほうけていたら冷静になってきて、今自責の念にかられていた。


桜が、俺の事を好ましく思っていた事を何となく感じとってはいた。


だから、それを分からないふりをして、なんとか距離を保ち、他の人にその好意を移させようとしていたのに、むしろその好意を増やす原因を作ってしまったし、距離を近ずけてもいいと言ってしまった。



「…難しい事は、明日考えるか」


きっと、桜も飽きるはずだ。


なら俺もそれに付き合うしかない。


決して、別の意味で付き合わないよう、

頑張らないと…!

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俺の中の『天使』と『悪魔』 なゆお @askt

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