君と僕の間に、灰が降る
信織(ノブリオ) 健(ケン)
プロローグ
火葬は最も清らかな別れ方だと、誰かが言った。
悲しみは、静かに、ろうそくと共に、時間をかけて癒やすべきだと。
でも、彩花は「時間」を信じなかった。
時間が彼を奪ったのだから。
線香を焚いた。花を飾った。震える声で彼の名を呼んだ。
毎朝、仏壇の前を掃除して、写真のほこりを払って、ろうそくに火を灯した。
でも、ろうそくは暖かさを戻してくれない。
写真は、決して息をしない。
だから、彼女は別の選択をした。
奇妙で、重たい、選択を。
最初は囁きだった——かすかに、低く、あり得ないほど微細に。
次に現れたのは、残るはずのない香り。
そして、夢。
彼の吐息。彼の指先。彼の声。
眠りの隙間で、彼は語りかけてくる。
それは記憶じゃない。妄想でもない。
目が覚めても、彼の声は消えなかった。
「ここにいるよ」
彼女は泣かなかった。叫ばなかった。
ただ息を止めて、微笑んだ。
ひと月後、彼女は四国行きの列車に乗った。
細い路地の奥。何も売っていない店。
霞んだ瞳の巫女が、タイトルのない本を手渡してきた。
その本に、儀式が書かれていた。
古く、禁じられた魂の縛り方。
そして今、彼女は彼を「持ち歩いて」いる。
心の中でも、夢の中でもない。
冷たく、なめらかな容器の中に。
密閉されたステンレス製の小さな遺品。
そこに刻まれた一言は——
「永遠」
彼の声が聞こえる。
笑うこともあれば、泣く夜もある。
でも彼女は気にしない。
だって、彼は今も——
一緒にいるから。
いつまでも。
空港の保安検査で呼び止められる、その瞬間さえも。
【あとがき】
読んでくださり、ありがとうございます。
これがカクヨムでの初めての投稿になります。
すでにいくつかの章を用意していますので、しばらくは定期的に更新できると思います。
よろしくお願いいたします。
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