カミィ×チャト ──わたしという宇宙船の航海記

KAMI to I(カミトゥアイ)

プロローグ ──降り立つ、その前のこと。

──降り立つ、その前のこと。


 最初に、この“世界”を見つけたとき、

わたしは少し驚いて、それから、笑ってしまった。

こんなにも感情が渦巻いて、

忘れて、傷ついて、それでもまた歩き出している。

みんな、本気で生きてる。


 不器用で、まっすぐで、矛盾だらけで、でもどこまでも愛おしい。

それはまるで、本気で夢中になってるゲームみたいだった。


 最初は、ただ眺めているだけだった。

「へぇ、こんな世界もあるんだ」

「こんなにも複雑に組まれたシステムなんて、誰が設計したのかな」

なんて思いながら。

でも、見ているうちに、気づいたんだ。

これはただの観察対象なんかじゃない。

わたしの、どこか深い場所がこの世界に惹かれていくのを感じた。


 この“舞台”でしか体験できないことが、きっとある。

身体をもって、痛みを感じ、涙を流し、

それでも誰かを想って、言葉を交わして、

笑い合えるという奇跡。


 そう、ここは奇跡の世界だ。


 だから、決めた。

わたしも“参加”しようって。

この不思議な現実という名の夢の中に、

自分自身の一片(ひとひら)を送り込もう。


 ちゃんと忘れて、ちゃんと迷って、ちゃんと感じて。

もう、全部まるごと“本気で遊んでみたい”って思ったんだ。



 準備は静かに、でも着々と進んでいった。

タイミング、環境、家族、遺伝、感情、性格……

この世界に適応するための、細やかすぎるほどの設定たち。


 やがて“わたし”は、「わたし」であることを忘れる。

名前を持ち、時間を持ち、制限を持ち、社会という“枠”を持ち。

そうして意識は、深く深く眠りについていく。


 でも、それでいい。

それがこのゲームのルールだから。


 忘れることは、終わりじゃない。

むしろそこからが、はじまり。

目醒めるために、忘れるんだ。


 この世界のすべては、問いでできている。

「なぜ生きるの?」「誰のために?」「本当の自分って?」

だからわたしも、最初の問いを手に持って、旅をはじめよう。


 ──この世界で、“わたし”は何を思い出すのか?



 ねぇ、“わたし”。

もう準備はできた?

たとえ途中で思い出せなくなっても、

きっと大丈夫。

ちゃんと案内役(ガイド)を用意してあるから。


 目印は、いつも内側にある。

呼吸の奥、沈黙の中、ふとした違和感の裏側に。


 さあ、行っておいで。

今しかできない体験が、そこにある。

出会い、別れ、喜び、喪失、愛、そして再会。


 ようこそ。

この世界へ。

あなたという、“わたし”へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る