唯我の将棋大会2

唯我は小さくため息をついたが、やると決まれば全力だ。


しかし今回の相手は、全国大会優勝経験者、プロ入り目前の天才少年、現役プロ棋士──まさに猛者ぞろいだった。


「やっべぇ、本物ばっかじゃん……」

公太が少しビビる中、

一祟は「でも唯我さんなら、きっと」と信じた目を向けていた。


勝てる保証はない。だが、剣の道と同じように、ただ前を見据える唯我。

静かに盤に向かい、次なる戦いに挑もうとしていた。


そして迎えた将棋大会当日。

広場の特設会場には、大勢の観客が集まっていた。

「唯我さーん!頑張ってー!」

「負けないでー!」

相変わらず、唯我の応援団には20人ほどの女性たちがぎっしり。


周囲の注目も、自然と唯我に集まっていた。

だが、そんな唯我の前に立ちはだかった最初の相手は、想定外だった。


「本日の対戦相手、天才小学生棋士の 小学三年生、公式戦20戦無敗! 大人相手にも多数勝利経験あり!」


司会の声に、どよめく観客たち。

蓮はまだ小柄な体格だったが、その目は鋭く、まるで何十年も修羅場をくぐった老練な棋士のような雰囲気をまとっていた。


その隣で、唯我は無言で席につく。

「ちょっ、唯我!油断すんなよ!?あいつ絶対ヤベぇぞ!」

公太が慌てて声をかけるが、唯我はただ静かに盤上を見つめたまま。


そして、対局開始。

最初の数手で、唯我はすぐに悟った。

(……この小僧、ただの子供じゃない)

指し手はまるで淀みがなく、隙もない。

まるで誘うような、罠を仕掛けるような、冷静な駒運び。


唯我も応戦するが、じわじわと押し込まれ、序盤から形勢が悪くなっていった。


「……えっ、唯我さん、押されてる……」

「まじかよ……!」

応援団からもざわめきが起こる。

唯我の顔にも、わずかに冷や汗がにじんだ。

だが、ここで諦める男ではない。


(剣も、将棋も同じ……相手の"呼吸"を読むんだ

盤上に向かう唯我の目が、鋭く変わった。

一手、また一手と、攻めに耐え、必死に凌ぎながら、わずかな綻びを探していく──。

「ここからだ……!」

公太が拳を握りしめた。

唯我、窮地からの逆転なるか──!?

じわじわと追い詰められる唯我。

だが、その表情には不思議なほどの静けさがあった。


将棋も剣も同じ。

相手の攻めに耐え、最後の最後で切り返す。


そんな唯我の信念が、徐々に盤上に現れ始める。

「……ん?あれ、唯我さん……」

応援していた女性たちの間から、誰かが呟いた。


そう──唯我はじっと防戦しながら、少しずつ、ほんのわずかずつ、布陣に"ほころび"を作っていたのだ。(あと少し……)静かに呼吸を整える唯我。


そして、ある瞬間──一手。

「飛車、切り!」一瞬、観客がどよめいた。


大胆な、いや、無謀とも思える飛車の切り捨て。

しかしそれは、完璧な計算に基づく"勝負手"だった。「……っ!」

天才小学生の顔が初めて揺らぐ。


唯我の飛車捨てに動揺した蓮が、一手だけ僅かにミスをした。

それを見逃す唯我ではなかった。瞬間、怒涛の反撃開始。


鋭い角交換、隙を突いた桂馬跳ね、一気に敵陣を切り裂く。

「す、すげぇ……!」

公太が思わず声をあげた。


盤上の流れは一気に唯我に傾き、数十手後──

「……負けました」

小学生は悔しそうに頭を下げた。


勝負あり。

唯我、見事な逆転勝利!

「うおおおおお!!唯我ーーーっ!!」

応援団が歓喜の声を上げ、飛び跳ねる。


唯我は静かに立ち上がると、手を差し伸べた。「いい勝負だった。またやろう」

その言葉に、驚き、そしてニッと笑って唯我の手を握った。

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