虎の行進

藤野悠人

虎の行進

 ひとつの国があったとさ。


 栄えていたとかいないとか。


 とても頑張る人がいて。


 そこそこ頑張る人がいて。


 まぁまぁ普通の人がいて。


 まぁまぁダメな人もいて。


 どこにでもある国だったらしい。


 揃いも揃って背比べ。


 莫迦ばか阿呆あほ鈍間のろまと道化。


 だいたいそんなものらしい。


 そんな国にもそれなりに、政治だ文化だ宗教だ。猫だ杓子だアレやコレやと、色々やっていたらしい。


 街は綺麗になっていて、どこもかしこもピッカピカ。


 人はどいつも愚図でダメ、頭の中はぐずぐず腐って、手前てめぇのことで精一杯。


 いっとう腐っていたのは、どうやら政治屋だったとさ。そうはいっても政治屋は、どこに行っても腐ってる、犬でも猫でも知っている。腐り方がマシな方を選んでいるうちに、どんどんジリ貧になっていったんだとさ。


 次に腐っていたのは、どうやらブン屋だったとさ。だけどもそれも当たり前。蟻んこだって知っている。あんまり臭いが酷いから、蓋をしたって鼻をつく。


 同じく腐っていたものは、どうやら商人だったとさ。腹の足しにもなりゃあせんのに、硬貨と紙切れざっくざく。仕舞いにゃ目ん玉落としたらしく、それもただの数字にしちまった。


 そんな感じでどんどんと、順繰り順繰り腐っていって、最初にぼとっと落ちたのは、これはちょいと意外な話で、一番元気な奴だった。


 おっと、勘違いしちゃあいけないよ。元気なだけで、マトモじゃなかった。


 オツムが腐った卵みたいな奴を、どうしてマトモと言えるかね? そもそも、アンタも、まだ、マトモかね?


 手足が腐ればあとは早い。人が腐るのはもっと早い。そうして人が腐っていけば、街も景色も娯楽も暮らしも、猫も杓子もすぐ腐る。


 手足が腐れば胴も腐る。胴が腐れば首が腐る。首が腐れば頭が腐る。あとに残るは死体を貪るうじの群れ。


 さぁ、踊れや歌えや飲め食えや。お先は真っ暗、先細り。素面じゃどうにもやりきれない。今日日きょうび、酒じゃなくても酔えるもの。目を隠すのにも目隠しいらず、ピカピカ光る魔法の板。


 踊れや歌えや飲め食えや。先はいくつだ、見たくもねぇ。命は惜しいが、捨てたくねぇ。得はしたいが、動きたくねぇ。案外それでもナントカなるから、どうにも浮世はままならねぇ。


 どいつもこいつも飲んだくれ。酒に、砂糖に、電気に、情報。呑んで呑まれてキリキリ踊れ。吐こうが泣こうが喚こうが、お好きにどうぞ潰れ方。


 そうしてみんな気触けぶれっちまって、どこだか知らねぇその国は、ずぶずぶ沈んでいっちまいましたとさ。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 …………………………。


 他人事みてぇなツラして読んでるかい?


 てめぇのことを言ってんだよ。

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