ニュートンの赤い糸

@716Sevencolor

まるで星に落ちるかのように

 それは、運命だったんだ。

 あるいは、星と星が引かれあうように、あるいは、リンゴが地に落ちるように。

 私が恋に落ちること。私が彼女を愛すこと。この星が生まれたときから、ビッグバンが発生した時から、仕組まれていたことなのかもしれない。

 ラプラスの悪魔は結局、すべての運命を決定づけられないらしいけれど。この運命は、初めから決まっていたに違いない。

 それこそ、万有引力のように、私が、私たちがひかれあうことは、星の軌道のように、既定路線きていろせんだったのだろう。


 その日は、ある暖かい春の日だった。

 忘れもしない1年前、高校一年生最初の日。桜舞い散る中、私立夢華和学園に入学した私は、すでに形成されつつあったクラス内の雰囲気になじむことができず、午前中に授業が終わったにもかかわらず、寮に帰ることができずにいた。

 今までに見たこともないくらい、きれいに整えられた中庭。まだ芽も出ていない花壇を見つめて、一人しゃがみ込んでいた。

 地元を離れてここへきて、親元離れてここにいる。元々内気な性格ではあったけれど、初日から友達の一人も作れず、何もない空間をボーっと眺めている。こんな調子で、この先やっていけるだろうか?多少お勉強ができたから、入学を許してもらえたが、この先何年も孤独な学生時代を過ごすなんて、耐えられるだろうか?私は、私には、そんなもの…

 「ねえ君、そんなところで何してるの?」

 とってもきれいな女の子が声をかけてきた。制服を見るに、私と同じで高等部の人のようだ。

 「別に、何でもないです。」

 「何でもないなら、どうしてそんな、泣きそうな顔をしているの?」

 憎たらしいほど、かわいらしい顔を潤んだ瞳で睨みつけ、足早にその場を立ち去る。

 「待って!」

 引き留めようと掴んできた手に温かみを感じて、涙がこぼれそうになってしまう。

 「なんなんですか!」

 本当、散々な一日だ。入学初日に友達も作れず、優しく声をかけてくれた他人に語気を荒げて反発してしまった。

 最低だ。最悪だ。振りほどこうとしても腕を放してもらえず、涙と桜が舞い散った。

 「ねえ、私の友達になってくれない?」

 その時、恋に落ちる音が聞こえた。いや、その時はまだ、ただ胸の高鳴りを感じただけだった。その高鳴りの正体に気づくのはまだ、もう少し先のこと。

 「ともだち…?私の、友達に…?」

 「うん!私、君の友達になりたいな!どうかな?」

 「も、もちろん!あ、えっと、あなたの名前は…?」

 私の答えににっこりと笑うと、彼女は優しい声色で自己紹介を始めた。

 「私は星宮ほしみやヒカリ!好きな食べ物はフルーツで、将来の夢はキャビンアテンダントかな。君の名前は?」

 ヒカリちゃんの言葉に少しドギマギしながら、ふぅっと息を吐いて心を落ち着ける。

 午前中にした自己紹介と一字一句違わない言葉で自己紹介をする。その時のことを思い出して、少し嫌な気分になりながら、そんな感情を表に出さないように言葉を紡いだ。

 「私の名前は、黒内くろうちリンゴ。生まれは岩手の片田舎、好きな教科は理科。なかでも物理が好きです。」

 「リンゴちゃんっていうんだね!いい名前。私、すきだよ。」

 ヒカリちゃんの言葉に思わずドキドキしてしまう。しかし、すぐに彼女の指すがフルーツであることに気づいて頬を染めてしまった。

 「リンゴちゃん顔真っ赤、ほんとにみたい」

 ヒカリちゃんのほほ笑みがあまりにも輝いて見えて、私は思わず、顔をそらした。

 「リンゴちゃん、1年生だよね?」

 「え、う、うん。もしかしてヒカリちゃんは…」

 「私?私は、2年生。1個年上だね。」

 同じくらいの背格好でとてもフレンドリーだったから、同い年だと勘違いしてしまった。夢華和学園は上下関係が厳しいって聞くし、ヒカリ先輩、怒ってないだろうか…?

 「あぁ、気にしないで気にしないで、先輩とかとかつけられても距離感じるだけだから、ヒカリちゃんって呼んでくれると嬉しいな!もちろん、もっとくだけた呼び方でもいいよ!」

 「え、っとじゃ、じゃあ…ひ、ヒカリちゃん」

 「うん!よろしくね!リンゴちゃん!」

 これが私たちが初めて会った日のこと。狂おしいほど愛おしい、運命の人と出会った日。

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