金曜日・革命日和(ホントだよ?)

今更ながら今日は金曜日


職場の帰り道、駅からの足取りはいつも通り重い。変わり映えしない一日を終えて、やっと戻れる時間が来た。そう思って、何気なくマンションのポストに手を入れたとき──



「到着のお知らせ」


スマートロッカーの控えめな液晶に表示されたその一行に、ほんの一瞬だけ、胸が動いた。



──来たんだ。


注文していたやつ。


思い出す。あの夜、迷わずインストールしたら購入ボタンを押した。1枚目のクレカの限度額を使い切ったことへの後悔などない。


まずひとつ目──

《ヴァニティネル》 室内用から屋外用の2機、それらのスペアとさらにスペアの六機

鏡面仕上げのサングラス型インターフェース。

目元を覆う黒く滑らかな曲線に、操作性を一切感じさせない無機質な美しさがある。着けると、自分の視界が外界から隔絶され、まるで世界から見放されるような──あるいは、選ばれたような気さえした。

現実世界に投影された推しに夢中のまんま転倒して頭を強打、来年から◯回忌が加算されるような事態にならないよう、お気をつけて

 


ふたつ目──

《エコー&チェンバー》

左右の耳にかける、“会話フィルター”搭載のイヤーデバイス。

高感度マイクと低遅延スピーカー、音響深度調整ができる。

「聞きたいものだけを聞き、話したいことだけを伝える」ための装備。耳に装着した瞬間、周囲のノイズがまるで意図的に消えていくのがわかる。

これに人の動きを感知した衝突防止機能もついているので、つけたままオープンカーの操縦までならできちゃう優れもの!動く人間にしか反応しないので、アクセルベタ踏みで塀に激突して脳挫傷で死ぬことが多いのはご愛嬌!東南アジアではこれをつけたまんまトゥクトゥクや飛行機を飛ばす猛者まで現れた。日本もグローバルスタン(以下略)


そんなわけで床に広げられた銀と黒のガジェットたちは、この部屋の中で唯一、未来のものに見えた。

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