第15話 なんと、刺客であったか


 天正6年(1578年)11月。信長から命を受けた羽柴秀吉が切り札を使う。小寺孝高(こでらよしたか)、後の黒田官兵衛を有岡城に赴かせる。

 この動きを事前に察知し報せたのは小太郎と衣茅であった。

「小寺孝高が?」

 小猿が表情を曇らせた。

 小太郎は言った。

「小寺孝高は村重と昵懇の仲でござる。翻意を促すには適任と秀吉は判じたのでありましょう」

「されど、荒木殿は此度も翻意はされぬであろう」

 小太郎は小さく首を振った。

「小寺孝高はこれまでの使者と違いまする」

「何が違う?」

「智謀にかけては段違い」

「たかが地方侍の知恵であろう」

「侮ってはなりませぬ。小寺孝高の軍師としての才は天下無双」

「随分、小寺を買っておるな小太郎」

 小猿は衣茅に目を向ける。

「おぬしはどう見る?」

 問われて衣茅は口を開いた。

「あの者、信長でもなく村重でもなく腹の底では己こそが天下を取れると思うております」

 小猿が驚く。

「地方侍じゃぞ」

 衣茅は真顔で言う。

「その地方侍、隙あらば昵懇の仲は無論、主君でも天下取るためなら倒す男」

「使者ではあらぬのか?」

「此度の目的は信長の誉を受けること。誠の狙いは村重の首かと」

「なんと、刺客であったか」

 小太郎が付言する。

「荒木殿にくれぐれもご用心なされるようお伝えくだされ」

 小猿が呟く。

「会わぬ方がよいな」

「賢明かと」

 小太郎と衣茅が示し合わせたように頷く。

「では、追い返すか」

 衣茅が首を振る。

「殺めるか?」

 またも首を振る。

 衣茅は言った。

「追い返せば角が立ち、殺めれば攻めの口実になりましょう」

「ならば、おぬしなら如何する?」

「監禁するがよいかと」

「その意図は?」

「才ある者を壊すには才無くすまで閉じ込めておくまで。土牢では智謀も働きませぬ」

(なんと・・・)

 小猿は思った。智謀にかけては衣茅の方が優れているのではと。

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