英傑たちのアルマゲスト-The ZΦDIAC Legends-

よんよんはち

プロローグ

0-0:星喰らう星剣

 ルグリア暦1200年。

 ここ南トレミー大陸に位置する大国、レグルシア王国では、聖ルグリアの転生を祝う転生祭が執り行われていた。太古、混沌が地上を支配していた時代、12人の英傑たちと共に混沌を払い、地上に光と平穏をもたらした大英雄は聖人となり、天球を廻る天空城へ天使として召し上げられた。その転生を祝うと共に、地上に生きるルグリアの子らに光の祝福を願う儀式である。

 今回は10回目の転生祭であると同時に、とある理由で国内外から多くの人々が王都レグルスを訪れていた。

「お待ちしておりました。民がそのお姿を一目見ようと集まっておりますよ。」

 衛兵が扉の前に立つ女性を案内する。蒼色のマントとそれに優らずとも劣らない美しい空色の髪、王都では王女に次ぐ美貌とも称される整った顔立ちは、彼女と対面した事のある者は誰しもがただ「美しい」と形容すると噂されている。

 彼女の名は、ブレイヴィア・クエルクス。

 王女から授かった友愛の証、星剣アルクトスと共に、王国最強の7人たる七天騎士に名を連ねる騎士である。否、正確にはそれも過去の話をなるだろう。

「こう言った表舞台は得意ではないのだがな。」

 王女の近衛兼側近として、また時に友として彼女を支えてきたブレイヴィアは、自身が主役となる事に気が引けており、分不相応だとも考えていた。

 しかしこの国にとって彼女は、今や七天騎士が一柱、星蒼剣せいそうけんの枠に留まらず、として新たな座を用意されていた。

 今日はその任命式典という事だ。

「良いではないですか。事実、かの偽神を討ち倒し、この国を救ったのですから。」

 式典用の正装に身を包んだエルフ族の少女が背後から声をかける。彼女こそがこのレグルシア王国の王女、アーシャ・ラナンキュラス・レグルシアである。

 彼女の言うように、とある背信者により降ろされた偽神、悪神王アンラ・マンユを討伐した功績により、英雄の名を授かる事になっていた。事実、人が創りし神であるにも関わらず、その強大な闇の力は大陸中を脅かす程の勢いを持っており、それを退けたとなれば英雄扱いも当然の事であろう。

 ブレイヴィアは微笑むアーシャの顔に少しばかりの緊張を解き、いつもより少し長く彼女の瞳を見つめた後、頭を下げた。その瞳の色を目に焼き付けながらゆっくりと顔を上げる。

「レイ、あなたならばその名に相応しい英傑として、皆の希望となれるでしょう。さぁ胸を張って。」

「はい。この星剣に賭けて。」

 暖かな陽射しが不安を晴らす風と共に差し込んだ。



 しかしその時、民が目にしたのは、英雄の姿ではなかった――。



 開け放たれた扉からは黒い靄が溢れ出し、渦巻き、降り注いだ。寄り集まり紡がれた魔力は巨大な蜘蛛の脚のような様相を呈し、美しい王城を抱え込まんとする程に伸長する。

 黒は人々の悲鳴に呼応するように波打ち、押し流し、飲み込んでいく。

 君臨するその姿に、人々は恐怖し、絶望した。

 星空を宿す剣は夜より暗い闇を纏い、渦の中心に煌めくのは蒼の騎士。

 闇の揺籠に少女の身体を抱き、冷たい目で下々を見下ろしている。


 かろうじて逃げ延びた人々はをこう表現した。

 悪神王の再臨、魔王ブレイヴィア、と――。

 

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