第3話!暴力にラブソングを
——その日、猫が鳴くのをやめた。
カラスが空を飛ばず、カエルが水に潜った。
動物園の猛獣たちでさえ、檻の奥に引きこもった。
(そして、誰かがポツリと呟いた)
「……ダマレーヤが、帰ってくる」
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(朝の厨房。小さなラジオから讃美歌。鍋の中では出汁が静かに湯気を立てる)
米佐(包丁を研ぎながら):
「……さて。今日も一日、命をつくるぞ」
そこへ修道士たちが、ぞろぞろと集まってくる。
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米佐:「なにか作って欲しい料理はあるか?
リクエストを献立に組み込もう」
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修道士たちは、目を輝かせてざわつく
修道士A:「えっ、ほんま!?じゃあ……焼きそばパン!!」
修道士B:「いやいやいや、チキン南蛮カレー!!」
修道士C:「冷やし中華にチョコがけしてみてくれ!」
米佐「それはカッワーイに任せろ」
修道士D(ぽつりと):「……母が作ってくれた、シンプルなおにぎり……食べたいなぁ」
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米佐は微笑みながら:
「……よし、全部採用する。
ただし、“一日で全部”は無理だ。胃が死ぬ」
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米佐の料理スキルは、生まれつきの才能ではない。
それは——
> 血の滲むような努力と、世界中の台所で培った“生きる知恵”の集積だった。
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禅寺を破門された後、米佐は**“食で救われない魂なんてない”**という信念を確かめるため、旅に出た。
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イタリアのトスカーナ地方では、
“マンマの味”に触れるが、「目分量文化」に苦戦。
→「1g単位の計量に慣れた和の感覚」が通用しなかった。
中国・四川省の火鍋屋では、
下処理中に手を火傷し、「修行僧のくせに耐えられんのか!」と怒鳴られる。
その夜は悔しさで涙が止まらなかった。
フランスの郊外のビストロでは、
皿洗いから始め、2ヶ月経ってようやくスープを任される。
ソースを焦がし、何度も「帰れ」と言われた。
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> それでも、一度でも“うまい”と言ってくれた人の顔を忘れられなくて、
米佐は次の街へと包丁を持って旅立った——
「才能とは、渇望と祈りによって製錬される」
「求めよ。さらば与えられん」
米佐が長い武者修行のなかで得た、ひとつの教訓だった。
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米佐:「ほら、できたぞ。
スペイン・バスク地方の煮込み料理だ」
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修道士A:「おほー!うまそー!!」
修道士B:「スペインの料理は日本の料理に味付けが似ているらしいな」
修道士A:「出た!ヴァリニャーノの豆知識!」
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(スープをすする院長)
築地山神郷(つきじやまかみさと):「……うん、旨いね……」
(だが表情はどこか曇っている)
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そして一言:
> 「……シスター・ダマレーヤが長期休暇から帰ってくる」
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修道士一同:「!!!!!!!」
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修道士A(震え声):「あの……あの悪魔シスターが……!!」
米佐(静かにスープをよそいながら):
「……なんだい、その“黙れシスター”ってのは」
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(修道士たち、顔色を変えて沈黙)
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修道士A(小声で):「……この修道院の、正式なコックです」
「カッワーイは、ただの臨時代理人だったんです……」
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修道士B(テーブルの下に隠れながら):「ああっ…呪われたシスターが…
赦してくれ…赦して…くれ…」
\ゴゴゴゴゴゴゴ……/
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米佐(スープ皿片手に、目を細める):「……来たな、“正式採用”」
続く。
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