第3話:アピタテラスにて はむちょん

新田中学校への登校まであと二日後、生体発電検査票が届いた翌日である。正洋はあらたな生活の緊張感を自覚しながら過ごす。思い返すと小学校は長かった。苦行ともいえる6年間、しかし大学まで進学するとなると、あと10年間の学生生活があるのだ。先は長い、それを意識しはじめる年ごろだった。しかしその胸中は、まだ幼く、その日の午前中、自宅で何度も読んだラノベを軽く読み、居間であおむけになりながら物語の世界を夢想していた。

闘う自分、理解した物語に自分が介入し、都合よく展開した。劇中のヒロインとお互い慰めあう関係に夢想する。要所で口からは擬音が漏れる


正洋「ぶしゅ・・ちゅう!」


家族は、直樹はゲーム、純子は友達の家、寿洋は寝ていた。母は仕事だ。正洋の意識は自然と遊びになる。しかしそれはまだ多様ではない。とりあえず新たな知見を得るために自転車でショッピングモール「アピタテラス」へ移動した。このモールの本屋はラッピングされていなく。立ち読みできるのだ。正洋の意識は雑誌の新刊が並ぶタイミングを意識していた。雑誌棚をまわると、すでに読んだものがまだあるが、新刊の雑誌を読む。手に取り、その雑誌の世界に入る。ジャンルにこだわるわけでもなく、いろいろな分野の雑誌を夢中で読み進める正洋。プロレス、映画関係、アニメ、付録の入手に興味があったが、手持ちの金銭の心もとなさで自然と断念している。


正洋「お金か、なんとかならないかな」


昼を迎える頃合いに、モールの2階にある、フードコートに移動する。・無料のウォータースタンドで紙コップに水をそそぎ、テーブルの椅子に座り、休憩する。背筋を伸ばす、大分雑誌の世界に没入できた。向かいのテーブルには親子連れがいる。母親が子供をあやしている。まだだいぶ子供だ。2歳ぐらいだろうか


正洋「かわいいよな、ちいさいね」


自然と心が安らぐかんじがする。正洋の当時の心境ではそれはまだ言語化するには幼かったのかもしれない。・


正洋「いいね、おおきくなれよ」小さくつぶやく


その時子供と正洋が目が合う。気のせいだろうか、正洋には相手が笑顔を向けたきがした。おもわず。片手をすこしふり、正洋も笑顔になる。


子供「はむちょ」


正洋(ん?なんか言った?)


母親は、子供をいとおしそうにあやす。マクドナルドの林檎ジュースをのませているようだ。自分はフライドポテトをたべている。・


正洋「まあいいや、トイレ行こ」


トイレはニトリ方面にある、移動してすぐのフードコートのマクドナルド向かいのテーブルの、これまた親子連れの児童の脇を通り過ぎる。かすかに聞こえた気がした。


「はむちょん」


母親「はい、はむちょんね」


同じセリフを続けて


正洋(はやっているのかな)


そう感じてトイレにむかった。午後の没入はもうすこし本屋を徘徊するつもりだった。その前に腹ごなしだ。自分もマクドナルドにしよう。

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