完璧なメイドは空気を読まない

★概要

登場人物2人の百合声劇の台本です。


★利用規約

商用/非商用問わず無料で、本台本を基にした作品制作に利用できます。詳しくは下記URL(『★利用規約』ページ)をご覧ください

https://kakuyomu.jp/works/16818622177463055239/episodes/16818792436262548215


★人物設定

絵美理(えみり):

中学2年生、女子

ハイスペックでコミュニケーション能力も高いが、お嬢さまの立場としてメイドに対して、素直に好意を打ち明けるというのは、雇用・被雇用の関係をもとに、交際を迫るよくないことなんじゃないかという規範意識と、高貴な生れのお嬢さまというのはこのように振舞うべきというセルフイメージが強いために、素直に好意を表明することができない

一人称は「わたくし」で、非常にはきはきとしっかりとした話し方をする


中瀬(なかせ):

20歳、女子。メイド

2年ぐらい前から絵美理のもとでつきっきりで働いていて、なんだかよく分からないけど非常になつかれているな、ぐらいのことは気づいている。思い込みが激しく、その思い込みからずれた物事については、すさまじく察しが悪くなる。論理的に考える癖があるが、その論理も完璧であるというわけではなく、つまり頭がわるいということはないが、いろいろ残念な人。絵美理のことは素直に好意を打ち明けられたら、喜んで受け入れるぐらいには好き

一人称は「私」で、物静かで抑揚すくなめに淡々とした話し方をする


★場面設定

季節は秋。夜。絵美理の私室。寝る前の静かな時間。中瀬は絵美理の正面に座って、髪の手入れをしている。ゆるやかな沈黙がつづいたのち(中瀬は基本的に話を振られない限り口を開かないようにしている)、唐突に絵美理が話を切り出してくる




★本編


【BGM:優雅な雰囲気のゆったりした曲】(フェードアウトしつつ次のSE)


絵美理:(唐突に強気に)付き合ってあげてもいいけど!

中瀬:(意味がわからず咄嗟に)は?


(間)


中瀬:(沈黙に耐え切れず)申し訳ございません。お言葉の意味がよくわかりませんでした。詳しく説明いただけると助かります

絵美理:(やや怒った風に)説明も何も言葉通りの意味よ!

中瀬:(少し考えてから)一つずつ確かめさせてください

絵美理:わかったわ

中瀬:まず「誰が」付き合うんですか?

絵美理:私が

中瀬:それから「誰と」付き合うんですか?

絵美理:あなたと

中瀬:(短い間をおいて)「付き合う」というのは「恋人として」という意味であっていますか

絵美理:(ややためらいがちに)そのとおりよ

中瀬:ひとまず意味を理解することはできました


(間)


絵美理:(ややぶっきらぼうに)それでどうなの?

中瀬:何が「どう」なのでしょうか?

絵美理:(怒ったように)私は「付き合ってあげてもいい」と言ったのよ

中瀬:(あくまで冷静に)言いましたね

絵美理:それに対するあなたの返答はどうなのかと聞いてるの


(間)


中瀬:(困惑しつつ)ありがとうございます?

絵美理:(少しの沈黙の後。感情がぶれるのを抑えながら)それはどういう意味かしら?

中瀬:「付き合ってあげてもいい」とはつまり私に対して特別な許可を、絵美理さまが与えてくださったということです

絵美理:そうね

中瀬:それについて感謝を申し上げました


(間)


絵美理:あなたはその与えられた許可によって、私と付き合う気はないということ?

中瀬:はい。そういうことになります

絵美理:(落胆を隠しきれない感じで)なんで?

中瀬:説明すると長いことになりますが……

絵美理:(途中で遮るように)私のこと嫌いなの?

中瀬:(驚いたように)違います

絵美理:じゃあ好き?

中瀬:(力強く)もちろんです!

絵美理:だったらなんで!


(間)


中瀬:「付き合ってあげてもいい」とはつまり、絵美理さまには「私と付き合いたい」という意志はないということでしょう

絵美理:それも数ある解釈の一つとして考えられるかもしれないわね

中瀬:だとすればその言葉は絵美理さまの気持を含んでおらず、私に対する配慮によってのみ成り立っていると考えられます

絵美理:まあそういう方向に考えが進められなくもないかしら

中瀬:以上の理由により、私は絵美理さまのことを愛しており、恋人になりたいとは考えておりますが、その許可をいただいたとしても、そこに絵美理の希望が入っていないのであれば、その許可を行使することはありません


(間)


絵美理:あの、人間ってね

中瀬:はい

絵美理:口で言ってる言葉と表に出てる態度が食い違ってる場合、態度の方に本当に思っていることがでるというでしょう?

中瀬:聞いたことがあります

絵美理:もう一度言うからちゃんと聞いてね

中瀬:わかりました


(間)


絵美理:(一語一語はっきりと言い聞かせるように)わたくしはあなたと付き合ってあげてもいいけど


(間)


中瀬:ありがとうございます

絵美理:(若干キレ気味に)「ありがとうございます」じゃなくて!

中瀬:絵美理さま、もうすぐ寝る時間ですので、そんなに興奮なさいますと……

絵美理:あなたが興奮させてるんでしょうが!

中瀬:そうなのですか? よくわからないですが、申し訳ありません


(間)


絵美理:というか、わたくし、もうすでにほとんど言ってしまっているも同然でしょう!

中瀬:何を、でしょうか?

絵美理:だから、それは言ってはいけないことで

中瀬:(はっと息をのんでから)もしかして絵美理さま

絵美理:(少し期待しながら)何かしら?

中瀬:なんらかの異能力の攻撃を受けていらっしゃるとか?

絵美理:(再びキレ気味に)そういう世界観の話じゃない!

中瀬:さすがに私もそれはおかしいと思いました


(間)


絵美理:わたくしにはわたくしなりのセルフイメージというものがあるの!

中瀬:セルフイメージ

絵美理:こうありたい、こうあらねばならないっていう、理想像!

中瀬:なるほど、いいことです

絵美理:いくら親しいといってもメイドに対して自分から好意を打ち明けるのはそのセルフイメージに反するわけ!

中瀬:(少し間をあけて)あからさまにほのめかすのも似たようなものではないでしょうか?

絵美理:それはぎりぎりセーフの判定だから!


(間)


絵美理:(正面から中瀬に抱きついて、大声で)付き合ってあげてもいいけど!


(間)


中瀬:(少し緊張したように)はい。私も絵美理さまと付き合いたいです


(間)


絵美理:(泣きながら)中瀬ー

中瀬:どうされましたか?

絵美理:好きー、大好きー

中瀬:私もです。絵美理さま

絵美理:好き、中瀬、好き、大好きー


(間)


中瀬:(言いにくそう)あの、もしかしてなんですけど

絵美理:(泣き止んで)何?

中瀬:ひょっとして今の「好き」も言葉通りに受け取らず、裏の意味を考えた方がいいでしょうか?


(間)


絵美理:(大声で)そんなわけないでしょうが!


(最後のセリフをエコー+フェードアウトで終わる。もしくは爆発音やコメディが終わってちゃんちゃんといった感じのSEで締めてもよいだろう)

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