第9話 料理バトル?ポン助の奮闘
一行が訪れたのは、山間に位置する小さな村だった。木組みの家々が立ち並び、素朴な雰囲気が漂っている。村の広場では、村人たちが談笑していた。
村に近づくにつれて、大介はへっぽこ魔王軍のゴブリンたちに指示を出した。
「さて、ゴブリンのみんな。悪いけど、村に入る前に、あそこの森の中に隠れていてくれるか? 君たちがいると、村人が驚いてしまうから」
リーダーゴブリンはしょんぼりとした顔で頷いた。
「へい。我々のような精鋭が、魔王様たちの邪魔をしてはならないでござる……」
彼らはそう言って、名残惜しそうに森の奥へと隠れていった。
「おう、旅のお人たちかい。こんな辺鄙な村によく来たもんだ。お主たちも、見かけによらず質素な旅をしておるな。しかし、この村の暮らしは豊かだ。何せ、この辺りの山で獲れる獣はどれも一級品でね。特に、このワシの狩りの腕にかかれば、どんな獲物も手に入る。山の恵みを最大限に引き出した料理は逸品になる。ま、そんじょそこらの旅人には、これほどの恵みを見たこともないだろうがな?」
恰幅のいい男が、腕を組み、傲慢に自慢しながら近づいてきた。この村の村長らしい。彼の目は、大介たちの一瞥すると、すぐに玉藻とミィのロリ姿に向けられた。玉藻は顔をしかめ、ミィは怯えたように大介の背に隠れた。
大介は村長の言葉を気にも留めず、にこやかに答えた。
「それはご立派ですね。ぜひその自慢のジビエ料理、一度、ご馳走になりたいものです」
しかし、その言葉に、ポン助がカッと目を見開いた。
「な、なんてことを言うんスか、村長! 勇者様を侮辱するなんて!」
ポン助は憤慨した。国王への恐怖と「彼女ができる」という個人的野望は薄れても、大介への忠誠心と、料理人としてのプライドだけは妙に高い。
「勇者様は、この僕が見込んだお方! その勇者様の料理を馬鹿にするなんて、許せないっス!」
ポン助は興奮して、村長の前に躍り出た。玉藻はそんなポン助を呆れたように見つめている。
村長はポン助の言葉に、訝しげな目を向けた。
「む? 勇者様だと? なにを寝言を。こんな村に、そんな大層な御仁が来るはずがないじゃないか。お主、何を言っているのだ?」
ポン助はムキになって叫んだ。
「何を言っているんスか! あそこにいるのが、まぎれもない勇者様っスよ! 勇者様は絶対に負けねぇっスよ!」
村長は大介をちらりと見た。確かに、見慣れない旅人ではある。だが、勇者というにはあまりに普通すぎる。隣の幼女は、ただの子供に見える。しかし、ポン助の真剣な顔を見て、妙な好奇心が湧いた。
「ほ、ほう? お主、そこまで言うなら、料理勝負でもしてみるかい? そっちが勝ったら、勇者様だと認めてやってやらんこともない」
村長はニヤリと笑った。ポン助は勢いに任せて、思わず頷いてしまう。
「よ、よっしゃー! やったるっスよ!勇者様は絶対に負けねぇっスよ」
大介はポン助の暴走に呆れつつも、「仕方ないな」とばかりに肩をすくめた。玉藻は腕を組み、不遜な笑みを浮かべた。
「フン。しょーもない勝負やな。まあ、この人間が負けるはずないし、見ててやるわ」
料理勝負は、翌日行われることになった。村の広場に特設の調理台が設けられ、村人たちが集まってくる。村長は巨大な鹿肉と、珍しい山菜を並べ、豪快に料理を始めた。
大介は、ポン助のコミカルな支援を受けながら、準備を進める。ポン助は、大介の料理を見様見真似で手伝おうとするが、ドジを連発する。
「うわっ! 包丁が滑ったっス!」
「勇者様、火加減はこれでいいっスか? ……あっ、焦げたっス!」
玉藻はそんなポン助を横目に、大介の手元をじっと見つめていた。大介はポン助のドタバタを気にすることなく、冷静に、そして手際よく料理を進めていく。森で採れた新鮮なキノコと、シンプルな鶏肉。それに、この村で手に入れたばかりの、名も知らぬハーブを加えていく。
料理が完成し、いよいよ勝負の時。村長が出したのは、見た目も豪華なジビエのローストだった。香ばしい匂いが広場に満ち、村人たちは感嘆の声を上げる。
次に、大介が作った料理が運ばれてきた。それは、シンプルなキノコと鶏肉の煮込み料理だった。見た目は地味だが、湯気からは温かく優しい香りが漂う。村人たちは、半信半疑で一口食べた。
その瞬間、広場に静寂が訪れた。
次の瞬間、あちこちからすすり泣く声が聞こえてきた。村人たちは、温かい料理を口に含み、涙を流している。
「こ、これは……昔、母さんが作ってくれた、あの味だ……」
「こんなに心が温まる料理は、初めてだ……」
村長は呆然と立ち尽くしていた。彼の料理は豪華で美味しかったが、大介の料理は、村人たちの心に直接語りかけていた。
「バカな! こんなシンプルな料理が、わしの料理に勝つなど……!」
村長はプライドを傷つけられ、顔を真っ赤にした。ポン助は、そんな村長を見て、得意げに胸を張った。
「見ましたか、村長! 僕の勇者様が作った料理は最高なんです!」
村長はざまぁを食らい、大介たちの料理の腕前と人柄が村に広まる。ポン助は、間接的に大介の役に立てたことに満足し、自信を少し取り戻した。
「フン。しょーもない争いだったが、まあ、この人間の料理の力には感心してやるわ」
玉藻はそう呟き、大介の隣で、満足そうに頷いた。
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【魔王のわるだくみノート】
フン! 人間め、まさかこんな村の料理勝負で、あそこまでやる気出すとはな。まあ、ワシの目利きが正しかったってことやな。それにしても、この人間の料理、ほんまに人の心を動かす力があるな。ワシの支配力とは違う、なんか不思議な力や。ま、ワシのわるだくみのためにも、この力は利用させてもらうで。アホな人間が、ワシの掌で踊っとるん、見てるの、なかなか面白いやんけ。
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次回予告
フン! 人間め、またワシを感心させおったな! まさかあんなしょーもない料理で、あの村長をギャフンと言わせるとは。まあ、ワシの力がなくなっても、この人間がおるなら当分は困らへんか。でも、ワシの魔王軍のへっぽこ共も、そろそろ役に立つところを見せてほしいもんやで! 次は、獣人の村に行くらしいが、どんな奴らがいるのか、楽しみやな!
次回 第10話 獣人の村の秘密と魔王軍の使命
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