第6話 へっぽこ魔王軍、推参!

森の奥深く。奇妙な一団が、枯れ葉の積もった地面をこそこそと進んでいた。彼らはかつて魔王・玉藻に仕えていた、へっぽこ魔王軍の生き残り部隊だった。リーダー格のゴブリンが、震える声で指示を出す。


「お、おい、みんな! 魔王様のお姿は、未だ見つからずか!?」


「へ、へい! しかし、魔王様はちいさくなったと聞きました! ゴブリン族の誇りにかけて、必ずお探しいたします!」


彼らの捜索は難航していた。元々がへっぽこなので、合流地点への道中もいつも難航し、地図を逆さまに持ったり、同じ場所を何度もぐるぐる回ったり、あげくの果てには毒キノコを食いそうになったりと、その歩みはまるで酔っ払いのように危うかった。リーダーゴブリンが項垂れた。


「ひぃっ! また道に迷ったでござる! 魔王様、この先にいらっしゃるはずでござるが……」


その声には、苛立ちと焦りがにじんでいた。合流地点は見つからず、玉藻を見つけられない状況に、彼らは途方に暮れているようだった。


その時だった。風に乗って、遠くから香ばしい匂いが漂ってきた。肉の焼ける匂いと焚き火の煙が混じり合う。警戒しつつ、匂いの元へと近づくと、木々の向こうに焚き火の光が見えた。その周りには、大介が手際よく料理をする姿、火の光に照らされ、小さくも威厳を放つ玉藻。そして、先日拾われたばかりのロリ獣人少女・ミィが、ポン助の隣で目を輝かせているのが見えた。大介たちの一団が、そこにいた。


へっぽこ魔王軍は物陰に隠れ、息をひそめた。焚き火の明かりに照らされた人影をよく見ると、一人は青年。そしてもう一人は、小さく、しかし紛れもない魔王の気配を放つ幼い少女だった。彼らは思わず身を震わせた。「魔王様が小さくなったという噂は、魔王軍の間でもまことしやかに囁かれていたが、まさか本当だったとは……!」そして、その隣には、先日王城から追放されたばかりのポン助が、彼らの知るポン助とは思えないほど穏やかな顔で、青年と幼女の間に座っていた。


「【実況】これは第3の視点からお届けする、“ちょっと不器用な恋の旅”である」


大介が「誰だそこにいるのは!」と声をかけると、へっぽこ魔王軍は観念して姿を現す。リーダーゴブリンが震えながら、しかし誇らしげに叫ぶ。


「ま、魔王様! 小さくなっているけど、間違いないでござる! 我ら精鋭魔王軍、只今参上いたしました! おお、そのお姿は……まさしく魔王様!」


彼らは玉藻の姿を確認すると、途端に態度を大きくした。リーダーゴブリンは大介とポン助に、ぎろりとした目を向ける。


「へい! おのれ人間ども! 我らが偉大なる玉藻魔王様を、一体どうするつもりでござるか! その、魔王様の隣の貴殿も、下手なことをすれば容赦はせぬぞ!」


他のゴブリンたちも、腰を低くしたまま、しかし必死に威嚇するように棒切れを振り上げる。彼らなりに、魔王の部下としての矜持を見せようとしているらしい。ポン助は彼らの様子に苦笑しながら答える。


「へへっ、勇者様と魔王様は、今は旅をしているだけっスよ。ご心配なく」


へっぽこ魔王軍は、ポン助の言葉に拍子抜けしたように目を丸くしている。玉藻は彼らを見て、ため息を吐きながら眉間に皺を寄せた。


「フン。うるさい奴らやな。別にワシは元気や。それより、お前ら、何か面白い情報でも持ってんのか?」


その口調は相変わらず偉そうだが、どこか安心しているようにも見えた。大介は事情を理解できず、きょとんとしている。


「え、魔王軍? こいつらも玉藻の部下だったの?」と尋ねる。ポン助が得意げに胸を張る。「そうだ! この大介が魔王様をテイムしたんだ!」その時、森の奥から、唸り声が聞こえてくる。三匹の魔獣が、大介たちに牙を剥いて襲いかかってきたのだ。へっぽこ魔王軍は一斉に悲鳴を上げた。「ひぃっ! 魔獣だ!」「ま、魔王様! お助けを!」


玉藻は魔獣を怖がりつつも必死で隠そうとし、大介との距離感のバランスが感情の小さな変化をよく表現する。


「ワシの魔力、ちびっ子仕様になってもうてるんや! 魔法陣すら出せへん……!」


玉藻が焦る。大介はチートスキル「魔物使い」で魔獣の動きを封じようとするが、相手は手強い。そこで、彼はあくまで「料理人」としてバトルを処理しようと、焚き火から燃える薪を掴み、炎を振るって威嚇する。魔獣は怯むが、まだ襲いかかってくる。大介は冷静に、焼き芋の皮が最強の結界になるという奇策を思いつき、大量の焼き芋の皮を魔獣の周りにばら撒く。魔獣は皮の匂いに怯み、動けなくなる。ポン助とへっぽこ魔王軍は、大介の異世界での生活能力の高さと、料理の知識を使った戦い方に驚きを隠せない。


「勇者様って、魚も捕まえられるし、魔獣も倒せるんスね……」


「魔王様をテイムするだけあって、すごいっス……!」


へっぽこ魔王軍は、大介の奇策と、玉藻の無事を見て、玉藻への忠誠心を再確認した。そして、彼らがひそかに情報収集を行っていたことを明かす。


「わ、わしら、たまたま酒場で聞いたんスよ!」


リーダーゴブリンはそう言って、国王が獣人に課す意味不明な法律の一例を具体的に語り始めた。


「そ、そうそう! 飲み代代わりに“毛皮税”って聞いて、耳がピクッとなってもうて……」


国王が獣人に対して「月のない夜は外出禁止」「毛皮税」といった、理不尽な法律があること。


「陛下は、獣人から搾り取るだけ搾り取って、スキルカードのガチャばかり……」


リーダーゴブリンが憤慨する。大介はそれを静かに聞いていた。


(こういう奴らが、彼女を“魔王”にしたのか……)


大介のモノローグで、彼の内面に静かな怒りが湧き上がる。玉藻はそんな大介を横目に見て、内心で満足そうに頷いた。


へっぽこ魔王軍は、自分たちの新たな使命を再認識した。それは、玉藻と大介の力を借りて、虐げられた獣人を守ること。彼らは、大介たちの旅に協力することを申し出た。


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【魔王のわるだくみノート】


フン! 人間め、また余計な奴を拾ってきたな! ポン助とかいうへっぽこタヌキ、国王に捨てられたとか、しょーもないにも程があるわ! まあ、ワシの新たな魔王城を作るためなら、使えんこともないか。こいつのへっぽこな情報網も、案外役に立つかもしれんな。それにしても、この人間、ワシの膝の上でタヌキに寝られるなんて、ほんまアホやな。ワシの隣はワシの特等席やのに。まあ、このわるだくみ、誰も邪魔させへんしな!


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次回予告


フン! 人間め、また余計な奴を拾ってきたな! ポン助とかいうへっぽこタヌキ、国王に捨てられたとか、しょーもないにも程があるわ! まあ、ワシの新たな魔王城を作るためなら、使えんこともないか。こいつのへっぽこな情報網も、案外役に立つかもしれんな! 次はいよいよ、ワシの昔のへっぽこな部下たちが登場やで! あんまりワシを困らせんといてほしいもんやな!


次回 第7話 食材探しの珍道中

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