第1章 泥だらけのエスケーパー(part 4)

 ハルカは、流石に2回も背負わせては、俺に気の毒だと思ったのだろう。

 バックパックを俺に持たせると、自分は足を引きずりりながら、俺の後に続いた。

 そこに、大きな羽搏はばたきの音と共に現れたのは、まぎれも無く昔、鳥類図鑑で見た極楽鳥だった。

 「でかっ!」

 俺は思わずうなった。

 極楽鳥はスズメの仲間で小鳥の筈だが、この鳥はデカい!

 馬鹿デカ過ぎる!


 恐竜の始祖鳥だって体長は1mだと言うのに、こいつの体長は優に3mを超えている。

 俺はてっきり、極楽鳥は単なるメッセンジャーで、他の何者かがブツを運んでくるとばかり思っていたのだが、若しかすると此奴こいつが直接運んで来るのかも知れない。

 何故なら、この極楽鳥が大きな袋をくちばしたずさえていたからだ。

 ハルカの方も言葉もなく、ただ茫然と立ち尽くしていた。


 「オヌシら、ワシが必要か?必要無いならもう行くゾ。ワシは忙しいのだ!」

 鳥が喋った!!!

 「あっ、待って、鳥さん!」

 ハルカが叫んだ。

 「何ダ?」

 極楽鳥は、カーニバルの道化を思わせるカラフルな身体には似合わない、ドスが効いた声で俺たちに問った。

 ハルカが盛んに顎をしゃくって、俺に物資を注文しろとサインを送っている。  

 俺だって何を注文すれば良いか全く考えていなかったし、第一、交換レートも分からない。

 ええい、ままよ!

 俺は、俺とハルカが持っていた銀色の石を袋から出すと、地面に巻き散らした。

 「この石で水と食料、それからこれから俺が言う雑貨と交換してくれ!」

 「良いダロウ!だがここの掟で、食料品だけは何がどれだけ届くはワシが持っている秘密のルーレットで決まる。文句は言わせないゾ」

 「えーっ!嘘?」

 ハルカは明らかに不満そうだった。


 「雑貨は、寝袋がひとつ。箱に入った救急用品を1セット、女性用の足首サポーターが1個、タオルと洗面用品が2セット、それから男性と女性用の本格的なサバイバル衣装を各1着、替えの下着上下とハイソックスが各1式、それから防水仕様の軽めの短靴が男女用各一足だ」

 「ま、待て!それだけ買うには、この銀色の石だけでは足りないゾ。金色の石1個も渡せ!後で運んで来てヤル」

 「後でとは何時だ?」

 「ワシが空からオヌシらを見つけて、ワシの機嫌が良い時だ!」

 「そんな!」

 ハルカは又しても不満そうに言った。


 「嘘だ。オヌシらヲ揶揄からかって見ただけダ。今日の夕方に持って来るカラ、それまでこの近くから動くなヨ!」

 「その件は分かったが、その時に、またお前から物資を買えるのか?」

 「物資を運んで渡す時は、注文は受けナイ」

 「じゃあ、次回はいつ買える?」

 「そうだな、じゃあコレをオヌシらにヤロウ」

 極楽鳥は、短い笛の様な物を、俺達の目の前に落とした。

 「ワシに注文が有る時は、その笛を吹ケ!運が良ければワシに会えるダロウ」

 「運が良ければって・・・」


 「サテ、もう時間ダ!ワシは行くゾ!」

 極楽鳥は俺の言葉を無視すると、両方の羽を動かしながら、器用にそれらの石を、自身がくわえていた袋に詰めた。

 「毎度ありー!これがお釣りダ。それから今回のお買い上げでオヌシらは150ポイントを獲得したから、安物のワインが2本、安物の煙草が2箱、安物の粉末コーヒー豆が2袋もサービスされます。尚、こうした嗜好品はポイントでしか手に入らないから大切に使えヨ!」

 「何だ、全部安物かよ!」

 「サービス品に贅沢を言うナ!高級品が欲しけりゃポイントを使え!交換レートはムッサムサ高いがな」

 そう言うと極楽鳥は大空に舞い上がって西の方角に向かって飛び去った。

 極楽鳥は、スズメ目の「フウチョウ(風鳥)科」の鳥類で、羽搏きで空を飛ぶ筈だが、此奴は空中に留まる時にだけ羽搏きを使い、空を飛ぶのは「風鳥」の名前通り滑空飛行だった。


 「アイツは自分の事をワシと呼んでいたから、案外、わし科の極楽鳥かも知れないな」

 「ふふふ、ジュンイチは洒落が上手ね。きっとそうかもよ。でもそれは日本人にしか発想が出来無いだろうけど」

 ハルカは俺に片目をつぶって見せた。

 極楽鳥が飛び去った後には、お釣りの銀の石が5個も残されていた。

 金の石は、俺が思っていた以上に、価値が高かったみたいだ。

 手元に残った交換用の物資は、金の石と銀の石がそれぞれ5個に成った。

 これは今後、俺達が交換用物資を見付けられなかった時の為に、手元に残して置こう。

 俺はそう心に決めた。


 「さあハルカ、テントに戻ろうか。今日の夕方、本当にあの極楽鳥がブツを運んで来たら、このゲームで勝利をつかむ事を願ってワインで乾杯しよう!」

 まあ、安物でもワインと珈琲は有難いと俺は思った。

 「素敵ね!それからわたし達の出会いも祝って」

 「そうだな」

 俺達はテントに戻った。

 テントに着くと、

 「有難う、ジュンイチ。わたしの分まで注文してくれて」

 ハルカが小さな声で俺にお礼を言った。


 「嫌だなぁ。当然だろ?金目の物の多くはハルカが拾った物だったし・・・」

 ハルカはにっこりと笑顔に成った。

 「今回は急な事だったので俺の一存で決めてしまったが、次回は二人で相談して決めよう」

 俺の提案にハルカのにっこりは、更にそのにっこり度を増した。

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