47話 きみはどう思うだろうか

【シアンの視点】



 神権軍の中央に銀色の巨大なルーンが現れていた。


——【Oblivion Axis / Axiom】

 (滅びの枢軸 / 聖剣 アクシオム)


 そこから強い光の線が四方を貫き、光の柱になる。


その白い光の柱は、収束して消えた。


 再び空を暗闇が包んだ。


 戦場には魔法や弾丸が飛び交い続けていた。


しかしそれとは異質の、痛い程の圧力が神権軍から感じ取れた。


 冷や汗が、ボクの額を伝った。


遅れて突風が発生し、ボクの黒いツインテールを激しくばたつかせる。


 マリナさんの伝想が、強く響く。


『リュカ・アルシエル顕現!! 総員! 左右に分かれて!!』


 そして第一強襲隊の陣形が変わった。


 それはまるで、機械のように正確に真ん中で割れた。

 

 『シアン! 出て!! 神権軍を貫くのよ!!』


 マリナさんの声を聞いた僕は、ルーンを発生させる。


——【Resonant Fragments / Tartarus】

   (散魂の残響 / 聖剣 タルタロス)


 背中に冷たい違和感を感じた。


 ボクは首の後ろに現れた『黒ガラスの柄』に、手を当てる。


 歯を食いしばって、一気に引き抜く。


 痛みが、ボクの背中を貫いた。


しかし構わず、走り出す。


風景が後ろに流れ始める。


 マリナさんのグリーンの広域結界の中で、第一強襲隊の全員が作った“道”が、真っ直ぐ伸びていた。


 方々で爆発と閃光が飛び散っていたが、走り続ける。


——草術で敵を絡め取るバベットを見た。


——激しく射撃をするテレーズさんを見た。


——震刀リッパーを振るうネリの後ろ姿を見た。


——そして最後に、紺色のマントと水色のボブを振り乱して戦う、アンネリースさんを見た。


 ……アンネリースさんと目が合ったような気がしたけれど、次の瞬間にボクはその場所にはもう居なかった。


——【Vapor Trace / Nebulis】

   (霊歩れいほ/ 気術)


 霧術の瞬間移動で、ボクは最前線に踊り出た。


 もうここからは、マリナさんの広域結界も届かない。


 しかしさらに速度を増して走る。


 手に持った、虹色に輝く黒ガラスの剣をしっかりと握り直す。


 サロメが言う。


『今よ! 最大魔力で撃って!! 全てを穿つのよ!!』


 ボクは走りながら、聖剣タルタロスを前に突き出し、魔法を練った。


——【Fallen Heaven Ray / Nebulis】

  (穿天せんてん獄熱ごくねつ軌閃きせん / 気術)


 聖剣から、真っ赤な線がほとばしる。


神権軍のど真ん中を切り裂くように、空気が圧縮された爆発音が響いた。


 ボクの聖剣から、蒸気のレーザーが発射された。


 神権軍の陣が中央まで、切り裂かれ蒸気のモヤに包まれた。


 視界が全て、灰色一色になった。


……しかしその奥で、きらりと白い線が煌めいた。


次の瞬間……


真っ赤な火花が、ボクの聖剣タルタロスから飛び散った。


 轟音が起こり、聖剣タルタロスの周囲から、竜巻のような突風が起こった。


 ボクの身体が飛び、10mぐらい吹っ飛んだ。


 片膝を突き、なんとか立て直す。


 半径100mの草原は一瞬で、灰の大地となっていた。


 剣を構えながら、ボクは顔を上げる。


 そしてボクはこの瞬間に、その人物を初めて見た。


——その人物を『殺意』と呼ぶのなら……あまりに冷酷で無慈悲で……美し過ぎた。



 まず最初に目についたのは、カールした輝く銀髪だった。それは生糸よりも細く、白く輝いている。


その銀髪に彩られた両目は、紫色で、脱色されたかのように淡い。


唇は薄い紅色で、生気を感じられない。


身体は華奢でどこまでも細い。


そして、その華奢な身体は、真鍮色の魔導機械が絡みついていて……彼の手脚を無理やりに稼働させているように見えた。


 右手に持たれた聖剣アクシオムは、不自然なまでに白い。怜悧なほどに真っ直ぐだ。


 その剣を彼は、無造作に構える。


 そしてボクに告げる。


邂逅かいこうと呼ぶには、必然すぎる……。しかし運命と呼ぶには、血で汚れ過ぎた……。だからわたしは、この瞬間をこう呼ぼうと思う……」


 リュカは、剣をゆらりと振るって、斜めに構える。


 そして透き通る声で告げる。


「わたしたちは『宿縁』である……と……。それこそが我々……『聖者』と呼ばれる、カルマに祝福された異形の人間に、適した出会い方だと思うのだが……」


 リュカは、崩れるように淡く微笑む。


「きみはどう思うだろうか、シロサキ・シアン……?」


 水蒸気が、彼の周りを取り囲んでいた。


 片膝を付いた僕のつま先と、聖剣タルタロスの切先が、震えた。


 戦場の全てが音を忘れて、壊滅的な静寂が降りていた。


そしてリュカは、右手をおもむろに上げる。


 リュカの聖剣アクシオムから『白い線』が発射された。


 それはボクの聖剣タルタロスにぶつかり、切り裂かれ、方々に飛び散った。


バラバラになった『白い線』は、草原を削り取り、死体を一瞬で消失し……あらゆる物を消し去った……。


 白い線が通り過ぎた後には、あらゆる物質が消えていた。


 それを見た瞬間に、ボクはこの世界オルネアに堕ちる前に見た『悲劇の瞬間』を思い出した。


——それは、詩歌が白い線に蹂躙されて消えた瞬間だった。



つまり……リュカの持つ聖剣アクシオムは、僕が前に居た世界を貫いた『白い線』とそっくりだった。


 そう気付いた瞬間、僕の理性が彼方に消えた。


 そう気付いた瞬間、僕の視界が赤一色に変わった。


だから、殺意の毒を飲み干した僕の脳が、声をあげる。


それは人間では無く、『衝動に飲まれた獣の咆哮』に僕には聞こえた。


「おぁあああああああっッ!!」


 その音は、静寂の中で破裂した。


 僕は聖剣タルタロスを血が滲む程に握りしめ、空間にルーンを刻みつける。


——【Vapor Trace / Nebulis】

   (霊歩れいほ/ 気術)


 リュカの目前に瞬間移動した。


僕は聖剣タルタロスを、背骨が軋むほど振りかぶり、黒い刃をリュカに叩き付けた。




 

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