11話 オーバークロックって何?

 まさかのバブみ発言で、無意味に自爆した僕に、スキンヘッドのヤマシロ中尉が質問する。


「シアン君……だったか? 君が発言を?」


「あ……」


 彼の冷徹な視線で、緊張が戻った。


 そうだ僕は、言いたいことがあったんだ。


 だから腹を括る。


イカついオジサンばかりの中だけど、アンネリースさん達の気持ちを代弁しないといけないんだ。


 いや違う……。


 僕が今までで感じた『想い』を言わないといけないんだ。


——嘘偽り無く。


「も、もちろん……発言します」


 ヤマシロ中尉は眼鏡の奥の目を鋭くする。


「もう時間は残されていない……有益な意見を頂戴したいものだ」


 手に汗が滲んだ。でも、それを固く握りしめる。


「本当に。アデルを……救うことはできないんでしょうか? みんなの為に頑張ったアデルが、このまま処理されてしまうなんてあんまりだと思うんですが……」


 その僕の発言で、その場に居た全員が俯き、沈黙する。


 マズイこと言ったことは分かってるけど……。額に冷や汗が伝った。


唾液を飲み込む音が、不自然に大きく聞こえた。


 ヤマシロ中尉が、静かにアンネリースさんに聞く。


「アデル伍長の救出の可能性か……。それについては、ラケルなら予測可能か?」


 アンネリースさんはラケルに質問する。


「はい。……ラケル?」


 アンネリースさんの呼びかけに応じて、ラケルが現れる。


 ラケルは、全員に深く一礼してから話し始める。


法爆オーバーロードしたアデル伍長は、現在南下中。我々の拠点であるゾアナの街には、あと60分で到達する予想です。泣きバンシィ化した伍長の魔導力は、3Sクラス。使用する魔法——叫震雷クライングブラストは、ゾアナの防壁を溶解し、一撃で市街を壊滅させる威力を秘めています」


 僕は質問する。


「アデルを救う方法は?」


「魔物に『ゾアライト』が癒着する前に破壊できれば、法爆オーバーロードを中断できると、魔導学上では証明されています。しかし……それは今まで何度も試みられてきましたが、成功したことはございません。原因としては……『法爆した魔物』の戦闘力があまりに高く、接近が困難を極めるからです」


 ヒゲのセグロ中尉が質問する。


「アデルの救出と処理……どちらが早期決着を望めるんだ?」


「処理につきましては、実例がございます。現在の第七魔導士中隊であれば、60分間の遠距離魔法の集中砲火により、69%の確率でくだん泣き女バンシィを撃破できるかと存じます」


 ネリが質問する。


「救出に……ついては?」


「救出について、ハッキリとした事は申し上げられません。たとえば、アンネリース様の魔殻兵隊を中核とした突撃部隊を編成し、泣き女バンシィ叫震雷クライングブラストを避けつつ接近できたとして……試算します。……加えて、ゾアライトとアデル伍長の癒着進行度も考慮しまして……現在の成功確率は……13%程度。交戦時間は……見当がつきません」


 それらを聞いたヤマシロ中尉が、「救出は絶望的か……。やはり処理が確実……」と呟く。


 ネリの肩が落ちた。アンネリースさんの視線は動かない。


 ラケルが説明を重ねる。


「しかし……『処理』においても『救出』においても、さらなる懸念がございます。『優秀な巫女であるアデル伍長の固有結界をどうやって破るのか?』……という点です」


 僕はアデルの半径100mの広域結界を思い出した。確かにあれは圧倒的だった。僕なんて、数メートルの結界が限界だ。


 ヤマシロ中尉がため息と共に言う。


「アデル伍長の結界か……。我々は、あれと対峙しなければならんのか……」


「ええ……。アデル伍長は優秀な巫女シールダーです。よって、彼女の結界は強力であり、そしてなおかつ泣き女バンシィ化した今、さらに強化されております」


 アンネリースさんが質問する。


「アデルの結界を破る事は可能ですか?」


 ラケルが答える。


「可能ではあると思います。もちろん皆さま既にご存知だと思いますが……結界の破壊には、魔殻兵が持つ『魔導兵装』による打撃が有効です。よって……現在のバンシィの結界を破壊するのなら、中隊規模の魔殻兵が必要になるかと存じます」


 ここでサロメが、ヒソヒソと注釈する。


『魔導兵装というのは、アンネリースの盾矛パイルバンカーや、ネリの震刀リッパーのことね』


 ラケルの予測を受けたアンネリースさんが、視線を落とす。


「中隊規模の魔殻兵ですか……。現在展開中の反乱軍の魔殻兵全員を招集してやっと、ですね……」


 ヒゲのセグロ中尉が嘆く。


「無茶苦茶だ。それは最早『結界』じゃ無い。『要塞』だ。一体どうやって突破するんだ?」


 全員の顔に絶望がよぎった。肩を落として嘆きの声をあげる人すら居た。


 しかしここでサロメが発言する。


その声はどこか能天気だった。


「それなら。安心して? 紫安は『オーバークロック』を使えるから」


 その『オーバークロック』という単語を聞いた瞬間、全員の表情が停止した。——もちろんまたしても、僕以外の全員が。


 全員が息を呑んで、一言も発さなくなった。


 セグロ中尉はヒゲに手を触れたまま黙り、ヤマシロ中尉も眼鏡をずらす。


ネリは大きな目をさらに見開き、アンネリースさんは瞬きすらせず完全に停止した。


 ……そしてそんな緊張感マックスの中、全員の視線が僕に集中する。


 だから僕は、間抜けな声を浮かべてしまう。


「え……え? い、いや? は? え……? ちょ、ちょっと待って? オーバークロックって何? オーバーロードじゃ無いの? サロメ……ちゃん?」


 しかしそんな僕を無視し、ヒゲのセグロ中尉が怒鳴るようにサロメに聞く。


「ほ、ほんとうか!? シアンがあの『墜世オーバークロック』を使えるだと!?」


 サロメは普段どおりの声で答える。


「ええ。本当よ。シアンはオーバークロックを使えるわ。つまり、法爆オーバーロードした『魔物』に、墜世オーバークロックした『聖者』をぶち当てるの。勝算があると思わない?」


「い、いや、それはそうかもしれんが…… しかしまさか……この小僧が、リュカの野郎と同じ『聖者』だと……?? 信じられん……」


 というか、さっきから何度か名前が出てくる『リュカ』って誰? あと『聖者』ってなに? どっちもめっちゃ怖いんだけど……。


 ヤマシロ中尉も、眼鏡を直しながらサロメに聞く。


「……聖者の『聖剣』を使えば、どんな結界ですら一瞬で粉砕できようが。……しかし、シアンが『熾天のリュカ様』と並び立つ事になるとは……俄かに信じられん」


 サロメは事もなしに言う。


「だから言ったでしょ? シアンは『天才』だって……。この、ナイスバディーでロリロリで、世界一可愛くて、どんな人工妖精イデアよりも賢いサロメちゃんのご主人様だもの。当たり前じゃない」


 アンネリースさんの横のラケルが言う。


「『どんなイデアよりも賢い』というサロメの意見には承服出来かねますが……。しかし、彼女の発言は信じる他ありません。なぜなら我々イデアは、嘘をついた瞬間に自壊するように契約が為されていますから……」


 そのラケルの言葉を聞いたアンネリースさんは、僕の目を見た。


その表情には、少しの『不安』のようなものが見えた。


あるいはそれは今にして思えば、『怯え』だったのかもしれない。


 揺れる彼女の青い瞳は、サファイアみたいに輝いていた。


 ともかく僕は無言で、うなづく。


——アンネリースさんの心の迷いを打ち消すために。


なぜなら今までの経験上、『サロメがウソを付くとは僕も思えない』からだった。


……まあ、『オーバークロック』が、いったい何なのか……全然わかって無いんだけど……。


とにかく『アデルを救いたい』という一点については、僕はこの場の誰よりも愚直に求めていた。


だから僕は、アンネリースさんの目を見つめて頷いた。——ゆっくりと確実に。


 その時、アンネリースさんの瞳に闘志が宿ったように、僕には見えた。


そして彼女は、声を発する。


それは混乱を極める会議の中で、誰の耳にも確実に届いた。


 アンネリースさんはゆっくりと、しかし明確な意思を持って全員に告げる。


「それでは私……大尉アンネリース・アーレは、決定しました。我々はこれより……『アデル伍長救出作戦』を実行します」




 ——こうして、僕の肩に大きな期待と責任が乗ることになった。


 後に思えば、軽々しくこんなことを受けた僕も馬鹿だとは思うんだけど……これから『責任』とかよりも『もっとヤバい事』が、僕の身に襲いかかるだなんて、この時の僕は知る由も無かった。


 ……まあ、もし、『オーバークロックのヤバさ』を僕がちゃんと知っていたら、この場でアンネリースさんにドヤ顔でアイコンタクトなんて出来なかったんだけど……。



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