11話 オーバークロックって何?
まさかのバブみ発言で、無意味に自爆した僕に、スキンヘッドのヤマシロ中尉が質問する。
「シアン君……だったか? 君が発言を?」
「あ……」
彼の冷徹な視線で、緊張が戻った。
そうだ僕は、言いたいことがあったんだ。
だから腹を括る。
イカついオジサンばかりの中だけど、アンネリースさん達の気持ちを代弁しないといけないんだ。
いや違う……。
僕が今までで感じた『想い』を言わないといけないんだ。
——嘘偽り無く。
「も、もちろん……発言します」
ヤマシロ中尉は眼鏡の奥の目を鋭くする。
「もう時間は残されていない……有益な意見を頂戴したいものだ」
手に汗が滲んだ。でも、それを固く握りしめる。
「本当に。アデルを……救うことはできないんでしょうか? みんなの為に頑張ったアデルが、このまま処理されてしまうなんてあんまりだと思うんですが……」
その僕の発言で、その場に居た全員が俯き、沈黙する。
マズイこと言ったことは分かってるけど……。額に冷や汗が伝った。
唾液を飲み込む音が、不自然に大きく聞こえた。
ヤマシロ中尉が、静かにアンネリースさんに聞く。
「アデル伍長の救出の可能性か……。それについては、ラケルなら予測可能か?」
アンネリースさんはラケルに質問する。
「はい。……ラケル?」
アンネリースさんの呼びかけに応じて、ラケルが現れる。
ラケルは、全員に深く一礼してから話し始める。
「
僕は質問する。
「アデルを救う方法は?」
「魔物に『ゾアライト』が癒着する前に破壊できれば、
ヒゲのセグロ中尉が質問する。
「アデルの救出と処理……どちらが早期決着を望めるんだ?」
「処理につきましては、実例がございます。現在の第七魔導士中隊であれば、60分間の遠距離魔法の集中砲火により、69%の確率で
ネリが質問する。
「救出に……ついては?」
「救出について、ハッキリとした事は申し上げられません。たとえば、アンネリース様の魔殻兵隊を中核とした突撃部隊を編成し、
それらを聞いたヤマシロ中尉が、「救出は絶望的か……。やはり処理が確実……」と呟く。
ネリの肩が落ちた。アンネリースさんの視線は動かない。
ラケルが説明を重ねる。
「しかし……『処理』においても『救出』においても、さらなる懸念がございます。『優秀な巫女であるアデル伍長の固有結界をどうやって破るのか?』……という点です」
僕はアデルの半径100mの広域結界を思い出した。確かにあれは圧倒的だった。僕なんて、数メートルの結界が限界だ。
ヤマシロ中尉がため息と共に言う。
「アデル伍長の結界か……。我々は、あれと対峙しなければならんのか……」
「ええ……。アデル伍長は優秀な
アンネリースさんが質問する。
「アデルの結界を破る事は可能ですか?」
ラケルが答える。
「可能ではあると思います。もちろん皆さま既にご存知だと思いますが……結界の破壊には、魔殻兵が持つ『魔導兵装』による打撃が有効です。よって……現在のバンシィの結界を破壊するのなら、中隊規模の魔殻兵が必要になるかと存じます」
ここでサロメが、ヒソヒソと注釈する。
『魔導兵装というのは、アンネリースの
ラケルの予測を受けたアンネリースさんが、視線を落とす。
「中隊規模の魔殻兵ですか……。現在展開中の反乱軍の魔殻兵全員を招集してやっと、ですね……」
ヒゲのセグロ中尉が嘆く。
「無茶苦茶だ。それは最早『結界』じゃ無い。『要塞』だ。一体どうやって突破するんだ?」
全員の顔に絶望がよぎった。肩を落として嘆きの声をあげる人すら居た。
しかしここでサロメが発言する。
その声はどこか能天気だった。
「それなら。安心して? 紫安は『オーバークロック』を使えるから」
その『オーバークロック』という単語を聞いた瞬間、全員の表情が停止した。——もちろんまたしても、僕以外の全員が。
全員が息を呑んで、一言も発さなくなった。
セグロ中尉はヒゲに手を触れたまま黙り、ヤマシロ中尉も眼鏡をずらす。
ネリは大きな目をさらに見開き、アンネリースさんは瞬きすらせず完全に停止した。
……そしてそんな緊張感マックスの中、全員の視線が僕に集中する。
だから僕は、間抜けな声を浮かべてしまう。
「え……え? い、いや? は? え……? ちょ、ちょっと待って? オーバークロックって何? オーバーロードじゃ無いの? サロメ……ちゃん?」
しかしそんな僕を無視し、ヒゲのセグロ中尉が怒鳴るようにサロメに聞く。
「ほ、ほんとうか!? シアンがあの『
サロメは普段どおりの声で答える。
「ええ。本当よ。シアンはオーバークロックを使えるわ。つまり、
「い、いや、それはそうかもしれんが…… しかしまさか……この小僧が、リュカの野郎と同じ『聖者』だと……?? 信じられん……」
というか、さっきから何度か名前が出てくる『リュカ』って誰? あと『聖者』ってなに? どっちもめっちゃ怖いんだけど……。
ヤマシロ中尉も、眼鏡を直しながらサロメに聞く。
「……聖者の『聖剣』を使えば、どんな結界ですら一瞬で粉砕できようが。……しかし、シアンが『熾天のリュカ様』と並び立つ事になるとは……俄かに信じられん」
サロメは事もなしに言う。
「だから言ったでしょ? シアンは『天才』だって……。この、ナイスバディーでロリロリで、世界一可愛くて、どんな
アンネリースさんの横のラケルが言う。
「『どんなイデアよりも賢い』というサロメの意見には承服出来かねますが……。しかし、彼女の発言は信じる他ありません。なぜなら我々イデアは、嘘をついた瞬間に自壊するように契約が為されていますから……」
そのラケルの言葉を聞いたアンネリースさんは、僕の目を見た。
その表情には、少しの『不安』のようなものが見えた。
あるいはそれは今にして思えば、『怯え』だったのかもしれない。
揺れる彼女の青い瞳は、サファイアみたいに輝いていた。
ともかく僕は無言で、うなづく。
——アンネリースさんの心の迷いを打ち消すために。
なぜなら今までの経験上、『サロメがウソを付くとは僕も思えない』からだった。
……まあ、『オーバークロック』が、いったい何なのか……全然わかって無いんだけど……。
とにかく『アデルを救いたい』という一点については、僕はこの場の誰よりも愚直に求めていた。
だから僕は、アンネリースさんの目を見つめて頷いた。——ゆっくりと確実に。
その時、アンネリースさんの瞳に闘志が宿ったように、僕には見えた。
そして彼女は、声を発する。
それは混乱を極める会議の中で、誰の耳にも確実に届いた。
アンネリースさんはゆっくりと、しかし明確な意思を持って全員に告げる。
「それでは私……大尉アンネリース・アーレは、決定しました。我々はこれより……『アデル伍長救出作戦』を実行します」
——こうして、僕の肩に大きな期待と責任が乗ることになった。
後に思えば、軽々しくこんなことを受けた僕も馬鹿だとは思うんだけど……これから『責任』とかよりも『もっとヤバい事』が、僕の身に襲いかかるだなんて、この時の僕は知る由も無かった。
……まあ、もし、『オーバークロックのヤバさ』を僕がちゃんと知っていたら、この場でアンネリースさんにドヤ顔でアイコンタクトなんて出来なかったんだけど……。
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