第14話「いざアジトへ」
「……ここか、ラーゲンさんが言ってた盗賊団のアジトは」
「……うん、完全一致。間違いないはず」
俺とリューナは、盗賊団のアジトへと辿り着いた。何故、奴等が神出鬼没と呼ばれているのか。何故、衛兵が奴等を捕まえられないのか。その理由は、ここに詰まっていた。
「……にしても、まさかこんな祠がアジトだなんて。まあ、らしいっちゃ、らしいか」
俺達の前には、石で出来た小さな祠のような物が立っている。外観は古びており、長いこと放置されたのか至る所が苔生している。中心には何かを祀っているのか、一際苔生した石像のような置物が鎮座している。傍から見れば単なる祠。だが、俺達はこの祠の隠されし真の姿を既に知っている。
「確か、ここを引っ張るんだよね……?」
リューナは祠に近付くと、中心に鎮座する石像を左手で引っ張る。しかし、案の定石像はピクリとも動かなかった。
「んー!片手じゃダメっぽい。タカミチ手伝って!」
「りょーかい」
俺は石像に触れる。石のヒンヤリとした感触と、苔の湿った感触が直に伝わってくる。
「うげっ。なんか湿っててキモチワル……」
あまりの気持ち悪さに一瞬力が抜けるが、何とかグッと力を入れ直し、リューナと共に石像を思い切り引っ張る。
「うおぉぉぉ!お、重い……」
「んー!っしょ!」
2人して声を上げながら、石像を引っ張り続ける。その甲斐あってか、少しづつではあるが石像は動いている。石像は鈍く重い音を鳴らしながら、少しづつ俺達に導かれ、ゆっくりゆっくりと移動する。
「んおぉぉぉ!!ラストスパァァァト!!」
そう叫びながら、渾身の力で石像を引きずる。すると、カチッという何かのスイッチが起動したような音が鳴った。
瞬間、石像を囲む祠に変化が表れた。祠は中心から分割船のようなヒビが走り、縦に真っ二つに割れた。そしてその割れた祠はまるで両開きの扉が開くように、それぞれが90度に回転した。
それに呼応するように、石像がその場でゆっくり回転し始める。
俺達は反射的に石像から手を離す。するとその瞬間、石像の回転は徐々に勢いを増していき、遂にはドリルのように回転しながら地面を掘り進んでいき、そのまま地中深くへと消えて行った。
「……これが仕掛け?なんか、すげぇな……」
呆気に取られ、そんな感想しか出てこない。ラーゲンから聞いた話では、森にある祠の石像を引っ張れば、盗賊団のアジトへと繋がる道が現れるとの事だった。それがまさかこんな奇妙な仕掛けが作動するとは、流石に予想外だ。
リューナの方をチラリと見る。彼女も俺と同じように呆気に取られているのか、真顔で呆然としている。
「……ごい」
不意にリューナがぽつりと呟く。
「どうしたリューn」
「すっっっっごい!!!」
俺の言葉に被さるように、リューナはそう叫ぶ。その目は眩しいくらいにキラキラと輝いており、彼女にしては珍しく心の底から興奮しているようであった。
「見た見たタカミチ?!祠がガバって開いて、石像がグルグルーって潜っていたよ!?凄い!あんなの見たことない!!」
リューナはまるで好奇心旺盛な子供のように、仕掛けに驚き興奮している。まさか、こんな反応を示すとは思いもしなかった。意外にも、リューナは好奇心が強く素直な性格なのかもしれない。いや、よく考えてみれば右腕である俺をすんなりと受け入れたのだ。ならこうなるのも、ある意味必然かもしれない。
尚もキラキラと目を輝かせるリューナ。普段は見せない表情も、これはこれで非常に可愛らしい。
「すご……。んんッ。まあ、そんなはしゃぐ程でも無いけどね!」
俺の生暖かい視線に気付いたのか、はたまた我に返ったのか、リューナは顔を赤らめながら咳払いをすると、いつもの調子に戻った。その動作もやはり可愛らしい。
「まあ、あれよ。さっさとこの中入って、ちゃっちゃっと盗賊団倒すよ!」
恥ずかしさを誤魔化すように、リューナは早口でそう話す。
「なぁ、リューナ」
「な、何タカミチ……?」
まだ動揺しているのか、リューナは僅かに声が震えている。
「……さっきの、可愛かったよ」
瞬間、リューナは左手で思い切り俺を掴み、渾身の力で絞め上げる。そして最早声すら出ぬ痛みが、俺を襲う。
「うっさいバカ!忘れろ!」
顔を真っ赤にしながら、俺に向かってそう叫ぶ。
「は……か……」
声を出そうにも、痛みと苦しみで声を出せない。そんな俺の姿を見て流石にやり過ぎたと思ったのか、リューナは咄嗟に手を離す。
「ご、ごめん!流石にやり過ぎた……。大丈夫タカミチ?」
リューナは心配そうに俺を見つめる。罪悪感を宿した瞳が、弱々しく俺へと向けられる。
「はしゃいでる姿も、可愛いね」
めげずに俺は、リューナという存在の可愛さを彼女自身に説く。瞬間、怒りの籠った左手が俺をガッシリと掴む。
「……マジで潰す」
ギロりと真っ赤な目で俺を睨み付け、ドスの効いた声で短く呟く。
――ヤバい、流石に調子に乗りすぎた。
「すんませんした……。ホンマ、冗談です……」
「……真面目に謝れ」
リューナはドスの効いた声で呟きながら、俺を掴む手に力を加え始める。
「いだぁぁぁ!!ごめんなさい!調子乗りましたァァ!」
痛みに悶えながら森中に響く声で、謝罪の言葉を叫ぶ。俺の意思が伝わったのか、リューナはすっと俺から手を離す。そして、先程までとは打って変わってにこやかな笑みを俺に向ける。
「次は無いからね?」
まるで貼り付けたような笑顔と圧を感じる声音でリューナは俺にそう言う。それに対して、俺はまるで頷くように何度も手首を縦に降った。
「……ま、冗談はこれくらいにして」
――全然冗談に聞こえないんだが……?
内心そう突っ込む。口に出したらまた制裁を喰らいそうなので、ぐっと押し留める。
そんなことを考えていると、リューナは左手をグーの形にして俺の前に出す。
「……盗賊団倒しに行くよ。タカミチ」
リューナは気合いの籠った笑顔で、俺を見つめる。それを見て、彼女のやろうとしていることが分かった。
――全く、人の台詞散々クサいとか言っておいて、自分だって同じじゃないか。
内心そう思いながら、笑う。だが、俺も彼女と同じでそういった如何にもな展開は、嫌いではない。
俺もリューナと同じように手をグーの形にする。
「……嗚呼。やってやろうぜリューナ!」
そう叫ぶと、俺とリューナは互いの拳とコツンとぶつけた。
「……よし!じゃあ早速行こっか!」
リューナはニコッと笑うと、一切の躊躇いなく穴へと身を投げる。
「え、ちょっ……。うわぁぁぁああ!?!」
反対に、一切の心の準備が出来ていなかった俺は情けない悲鳴を漏らしながら、リューナと一緒に穴へと落ちていった。
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