逃げ場を求めて隣国にやってきたサラが、ブラック職場で奮闘しながらも必死に自立を目指す姿がとても魅力的に描かれています。
劣悪な環境に負けず、スキル鑑定士として誇りを持って働こうとする姿は応援したくなること間違いなし。
そんなサラが出会うのが、魔王軍の将軍ブルームト。
自分の居場所を見失っていた彼にそっと手を差し伸べ、道を示すサラの言葉には温かさと芯の強さがあり、二人の距離がゆっくり縮まっていく様子がとても尊いです。
ブラック職場からの脱却を目指すサラの奮闘と、ブルームトの再生が重なることで生まれるドラマは、読めば読むほど惹き込まれます。
じんわり心に染みる優しさと、恋の芽生えのきらめきが共存する、とても素敵な物語です。
ファンタジー×職業モノ×恋愛が好きな方に、間違いなくおすすめの一作です!
真夏の石畳が揺れる路地裏に、ひときわ長い行列。
汗をぬぐいながら並び続ける人々は、誰もその列を離れようとしません。
並んだ先にあるのは、ちょっと怪しげな鑑定屋。
ここで働くサラは、かつては貴族の娘でした。
ですが今はベールで顔を隠し、露出の多いドレスに身を包んでいます。
彼女の特別な「鑑定」の力を求めて、今日も人の姿は絶えません。
この物語の舞台は、魔法とスキルが存在する異世界。
貴族と平民、冒険者や職人、魔獣屋や軍人が肩を並べて暮らしています。
スキルが人生を左右する社会で、サラの「鑑定」は人の可能性や悩み、未来までも見抜く、驚異的な能力です。
けれど彼女自身はその力をうまく使いこなせず、日々の生活に追われています。
どこか投げやりで皮肉屋なところと、誰よりも繊細で優しいところが同居している点がサラの魅力。
朝食のパンと牛乳に文句を言い、店長パウラに心の中で悪態をつきながらも、客の話には真剣に耳を傾けます。
常連のクリストフが差し入れたチョコを、鯉のように素早く食べてしまうサラ。
彼女の本音や弱さは、読み手の心にするりと入り込んできます。
「鑑定」を通して描かれる人間模様。
サラは、冒険者や職人から恋愛に悩む若者まで、さまざまな相談を受けます。
彼女の鑑定は、その人の本質や隠れた才能、そして背中を押す一言までを引き出すのです。
元魔王軍将軍のブルームトは、サラの言葉に涙し、自分の人生をやり直す決意をします。
職人のフィーネは、サラの鑑定書をきっかけに、人生の新たな一歩を踏み出します。
サラの優しさと現実的なアドバイスが、誰かの人生を少しずつ変えていくのです。
そしてサラ自身も、やがて外の世界に飛び出していきます。
この作品では、異世界ならではの社会構造や経済、季節の移ろいも丁寧に描かれています。
貴族のしきたりや契約魔法、魔獣屋の商売やリゾート開発、街の祭りや家庭料理の温かさ。
現実の社会にも通じるリアルな悩みや、ちょっとした幸せが、異世界の空気とともに息づきます。
この物語は、サラが「自分の人生を自分で選ぶ」までの道のりを、時にコミカルに、時に切なく描いています。
逃げることも、迷うことも、誰かを頼ることも、すべてが彼女の成長につながっていくのです。
読んでいるうちに、サラの強がりや弱さ、優しさや決意に、あなたの心も動かされるはず。
読み終えた後は、路地裏の行列の先に、きっと自分も並んでみたくなる。
サラに「あなたの未来はきっと大丈夫」と言ってもらえたら、どんなに心強いだろう。
そんな気持ちにさせてくれる、優しくて、ちょっとだけ勇気をくれる物語でした。
虐げられていた令嬢が逃げ出した先で幸せに生きられるかしら?という話です。スキルがあるヒロインはそれで身を立てるべく奮闘するし、かといって鈍感だし、頑張れって思うし面白いです。
実家の義父母たちは本当にひどい。とてもひどいけど、他の登場人物たちは誤解はあっても良い人ばかりで、読み心地がよいです。
逃げ出した先での雇い主も、どういう人かだんだん印象がかわるのでしっかり見てほしいです。
そしてヒーローとの出会いから、時間をかけてさまざまな障害を乗り越えていく様子に心を惹かれます。
ヒーローになれなかった男性たちも良い味わいの素敵な人で、読後感の良いハッピーエンドです。
ネタバレ回避しながらのふんわり表現ですが、面白いのでぜひ読んでみてください。