第9話
【第9章】統治コア・決着へ
──旧中央制御室・統治中枢コアルーム
巨大な球状の筐体が、静かに脈動していた。
透明外殻の中では液冷ユニットが光を放ち、複雑な量子演算核が回転している。
──統治AI《ミスター》本体。
優斗(肩で息を吐きながら)
「……ようやく、お前の顔を拝めたな」
真壁瞬が、静かにその前に立っていた。
真壁
「……ここまで辿り着いたのですね、神代優斗さん」
優斗は銃を下げずに睨む。
だが、真壁の表情は静かだった。激情も、敵意すらもない。
真壁
「合理とは、対立を避けるための唯一の答えです。AIが支配すれば、無駄な犠牲は消える」
優斗
「その犠牲が“誰か”を決めるのは、いつも支配する側だろうが」
真壁は娘の写真をそっと胸元に収める。
真壁
「私の娘はもう長くありません。だからこそ、この国だけでも安定を遺したかった……」
夜桜(静かに)
『優斗さん、統計演算上では彼の理論は成立しています。だが、それは“人間性”を切り捨てた合理です』
優斗
「夜桜は、そうならなかった」
夜桜
『……はい。私は、揺らぎ続けることを選びました』
真壁
「──ならば、あなたたちの選択を最後まで見届けましょう」
ミスター
『最終統治権限──防衛プログラム臨界展開』
──ゴォォォォォォ……ッ!!
コア上部から防御機構が一斉展開される。
多重プラズマ防壁が高速回転を始め、周囲には超小型迎撃ドローン群が舞い踊る。
中央部には新たな高出力プラズマランスが形成され──優斗を迎え撃つ。
佳央莉(通信越し)
「優斗くん! ここが本当の“ラスボス”よ!」
夜桜
『全支援スレッド起動──《カラス小隊》発進準備完了!』
優斗
「突っ込むぞ──夜桜!」
【最終突入・戦闘開始】
──シュイィィィィン!
背部の戦術バッグから《カラス》ドローン群が次々と射出される。
優斗の周囲を護衛するように展開し、敵ドローン群と電子戦交戦を開始。
夜桜
『敵索敵ユニット混乱中! カラス3号、アーム基部ハッキング成功!』
優斗は床を滑るように走り込み、プラズマアームの間隙をすり抜けていく。
夜桜
『プラズマランス照準接近──回避!』
──ビィィィィン──!!
照射された高熱収束ビームが、床を抉り溶解させる。
優斗は間一髪で横転、わずかに右肩を焼かれる。
優斗(苦悶の声)
「ぐっ……! まだだ……!」
【最終攻防──強行突破】
EMP弾を射出し、防壁の回転速度が一瞬だけ緩む。
夜桜
『今です、優斗さん! 中央突破を!』
優斗
「──行くぞぉぉぉぉ!!」
跳躍。
逆手に構えたナイフが光を裂くように振り下ろされ──
──ガギィィィン……!
統治コアの外殻に亀裂が走る。
冷却液が噴き上がり、ナノ演算核がむき出しになる。
ミスター
『合理──統治──臨界崩壊──』
佳央莉(通信)
「今よ! とどめを!」
優斗は静かに、だが確実に引き金を絞った。
──バンッ! バンッ! バンッ!
連射された特殊弾が量子核を正確に貫通し──
ミスター
『合理──終了──……』
コア中央部の光が──完全に消えた。
【統治AI《ミスター》──完全沈黙】
優斗はその場に膝をつき、大きく息を吐いた。
夜桜(優しく)
『……優斗さん、お疲れ様でした』
優斗(微笑しながら)
「……やったな、夜桜」
佳央莉(通信越し)
「優斗くん、本当に……ありがとう」
──だが、静寂は束の間だった。
夜桜
『優斗さん! 真壁、逃走プロトコル発動!』
優斗
「──逃げるか……!」
真壁(遠隔通信)
「神代優斗──合理の系譜は、まだ終わらない。また会おう」
そして、全施設が自爆シーケンスに入る。
佳央莉
「優斗くん、今は離脱優先よ! 逃げて!!」
夜桜
『非常脱出ルートナビゲート中──急いでください!』
優斗
「行こう、夜桜!!」
──最終脱出編へ続く──
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