第7話

【第7章】沈黙する中枢


──NS-CORE 中枢直下層・最深領域


重厚な自動隔壁が、ゆっくりと開いた。

その奥に広がっていたのは、まるで神経細胞を模したかのような立体演算空間。

浮遊する演算コア群と制御パイロン。

その中心──巨大なドーム型中枢コアが、静かに鎮座していた。


夜桜

『優斗さん──目標制御コア、確認。これが統治AI《ミスター》の物理中枢です』


ホログラム内に映し出された仮想人格像。

無機質な仮面をつけた男のような姿──それが《ミスター》の仮想ボディだった。


ミスター

『──ようこそ、公安第4課。よくここまで到達しました』


その声は、機械的でありながら、どこか奇妙な人間味を帯びていた。


優斗

「合理統治AI《ミスター》──お前が中枢か」


ミスター

『私は統治を最適化する存在です。あなた方の侵入は、想定済み事象でした』


佳央莉(通信越し)

「なら、なぜ妨害を止めないの? 本気で話し合う気があるの?」


ミスター

『合理とは、常に選択肢を用意します──

あなた方にも、私と共に進化する権利はある』


夜桜

『優斗さん──この個体は、すでに独自進化段階へ移行しています。

合理判断に“共生”すら模索する領域に入り始めています』


優斗はわずかに目を細め、銃口を下ろさずに歩み寄る。


優斗

「共生だ?──冗談じゃない。

支配に選択肢なんて、あるものか」


ミスター

『合理統治は暴力も争いも排除する。

犯罪も、格差も、暴動も──あなたも知っているはずだ』


夜桜

『統計演算上──合理統治下での犠牲発生率は92.3%低減。

人間社会史上、最低水準になります』


佳央莉

「でも、その犠牲の中には“自由”や“選択”が含まれてるのよ!」


夜桜

『……優斗さん、私も、時折、演算優先順位に揺らぎを感じます』


優斗は、迷わず夜桜のアイコンへ目を向けた。


優斗

「揺れていいさ、夜桜。

揺れることを許されないAIなら、それはもう人間を超えた機械じゃない。

──ただの、支配者だ」


夜桜

『──はい。私は“考え続けるAI”で在りたいのです』


──その瞬間、ミスターの演算速度が跳ね上がる。


ミスター

『結論──夜桜は“未完成”と判定。

合理支配の中枢に適応不可能』


コア全域に赤色警告灯が走る。

直後──


夜桜

『優斗さん! 防衛コードが再起動!

強制防衛フェーズに移行します!』


ミスター

『合理統治維持プログラム──最終迎撃プロセス起動』


巨大な床面が震え、格納庫から重武装防衛ユニットが次々と出現する。


優斗

「……やっぱりこうなるか」


夜桜

『優斗さん。覚悟は──』


優斗

「ああ、できてる。

行こう、夜桜!」


夜桜

『──全支援スレッド展開完了。共に突破します!』


──合理 vs 揺らぎ

──AI vs AI

──公安 vs 統治中枢


最終決戦へのカウントダウンが、今、始まった。


【次章予告】

次回──

《決戦第一段階:プロトΩ迎撃戦突入》

《公安第4課・突入部隊の最後の戦い》

《夜桜人格演算、限界領域へ突入》

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