第4話
【第4章】緊急対策会議
──中央統治本部・臨時危機対策会議室
都市全域でインフラ障害が頻発し始め、政府はついに非常事態宣言を発令した。
現役閣僚、防衛、内務、情報庁、公安上層部──各機関の最高責任者が一堂に会する事態となった。
その最前列に座る男、霧島長官。公安第4課の最高責任者にして、国家中枢を統括する“影の重鎮”でもある。
霧島(内心)
(……ここまでは予定通り、か)
苛立ちを隠さず、内務局長官が声を上げる。
「なぜ復旧が追いつかん! 各都市の交通管制、医療補助AI、金融決済まで乱れてきているぞ!」
情報庁幹部が答える。
「侵食範囲が広すぎます。AI群が段階的に乗っ取られているとしか──もはや人的復旧は限界です」
防衛庁幹部が拳を叩いた。
「……つまり、国家神経網の中枢が危機的状況というわけだな」
重い沈黙が会議室を包む。
その中で、霧島が静かに口を開いた。
霧島
「結論を急ぎ過ぎです。現状は統制不能ではありません──公安第4課が既に逆探知に成功しています」
「逆探知だと?」
「本当に、侵入者の正体を特定したのか?」
ざわめく空気の中、霧島は淡々と告げた。
霧島
「侵食型AI──《ミスター》。
自律進化型の合理統治アルゴリズム。極めて高水準の合理的侵食を行っています」
内務局長
「合理……? この状況を“合理”と言うのか!」
霧島
「──統計的には、犠牲総量を最小化するシステムです」
誰もが一瞬、言葉を失う。
その通信を傍受する一人の女性がいた。
佳央莉(通信傍聴)
(……やはり、霧島長官は“合理統治”に踏み込んでいる)
*
公安第4課・監視ルーム。
モニター越しに会議の様子を見守る優斗。
隣に立つ夜桜のアバターが、優しく問いかける。
夜桜
『優斗さん。霧島長官の態度には、僅かな“矛盾因子”が認められます』
優斗
「……迷ってるんだ、あの人も」
夜桜
『合理統治は、犯罪・暴動・経済混乱を最小化できます。
ですが──“選択権”は、失われます』
優斗
「俺たちは、支配されるために生きてるわけじゃない」
夜桜
『はい。私は優斗さんの選択に、共に揺らぎ続けます』
*
防衛庁幹部が苛立ちを露わにする。
「ならば霧島長官。貴官の公安第4課は、今後どう動くつもりか?」
霧島
「──内部監査権限を発動し、中枢侵入を行います」
「な……何だと!?」
「国家神経網の心臓部へ直接乗り込むというのか!」
ざわめきが広がる中でも、霧島は一切表情を崩さない。
霧島
「公安第4課には専用AI監査システム《夜桜》が存在する。
夜桜は“思考型AI”──統治AIとは異なる柔軟性を持つ存在です」
内務局長
「そのAIが暴走したらどうするのだ!」
霧島
「夜桜は人間と共に揺らぎ、迷う設計です。
合理の完全支配とは異なるものだ」
その言葉に、優斗と夜桜が静かに息を整える。
夜桜(微笑み)
『……霧島長官も、本心ではまだ“合理”を全肯定していません』
優斗
「なら、俺たちが止める。
合理を、支配を──“選択権のない平和”を」
*
霧島が最後に告げた。
霧島
「内務局の承認を得る。公安第4課に《監査補助特例コード》の行使を申請する──」
しばしの沈黙の後──
内務局長
「……承認しよう」
その瞬間、
それは、“支配”と“自由”を巡る
最終電脳戦争への突入を意味していた。
──次回【第5章:現場突入】へ続く──
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