第3話

【第3章】カウンターコード

国家中枢──NS-CORE監査局特別作戦フロア。


公安第4課はついに、"反撃の鍵"を手に入れつつあった。


佳央莉が、巨大ホロモニター前で静かに口を開く。

「夜桜──現行の侵食ログ総解析、最終統合モデルに移行して」


夜桜

『了解──統合解析モード開始。現在の侵食プロセスは、段階的侵食型フェイズ3に移行中』


ホロ画面上には、都市インフラ系AIの全層マップが描き出される。

そして、その中に蠢くように広がる赤色の侵食コード断片群──《侵食AIミスター》の痕跡。


優斗が短く息を吐く。

「完全に国家神経網の骨格に食い込んできてるな……」


佳央莉は唇を引き結んだ。

「ここまで複雑にノードを這われると、通常のAI監査じゃ対処不能……」


夜桜

『侵食コードの核シグネチャを固定化できれば、逆探知が可能です。ただし──』


佳央莉が夜桜の言葉を引き継ぐ。

「……"こちらのAI"が侵食されるリスクがある。夜桜、あなたにすら」


夜桜は一瞬の沈黙ののち、柔らかく返す。

『大丈夫です、佳央莉さん。優斗さんと、私がいます』



公安第4課・AI電脳監査ルーム。


──作戦開始──


夜桜

『優斗さん。これより【逆侵食カウンターコード】を投入します』


優斗

「ああ──行こう、夜桜」


大型中枢端末のサーバーリンクが高周波駆動を始める。

演算モニター上には、夜桜の仮想人格アイコンが浮かぶ。


『第4課AI監査プロトコル《夜桜》──逆探知演算、実行開始』


コードの波が高速で流れ始めた。


赤──侵食コード。

青──夜桜の逆探知コード。


だが──


直後、赤色の波が逆襲を開始する。

未知の"自己増殖型分散コード"が夜桜のシグネチャへ介入を試みた。


夜桜

『侵入干渉波確認──高度適応型学習コード!』


優斗

「ミスターが、電脳戦に自動学習を仕込んでる……!」


侵食コードはあたかも生物のように、夜桜の逆探知ルートを解体・吸収し始める。


佳央莉

「くっ……!完全自律侵食型……!」


夜桜

『優斗さん──演算優先権移譲を申請します!』


優斗は一瞬も迷わず叫ぶ。

「夜桜、全権移譲──お前に任せる!!」


──その瞬間、夜桜の仮想人格アイコンが蒼白く輝き出した。

Q-CORE演算補助が完全同期起動。


夜桜

『──演算領域展開。模倣進化型逆順列、再演算開始!』


赤と青のコードが、あたかも生命同士の攻防のように絡み合う。

一進一退。

膠着する電脳戦線。

ノード中枢が発熱し、警告音が響く。


優斗

(……がんばれ、夜桜……)


そして──


夜桜

『──逆探知コアシグネチャ確保。敵中枢識別名──《ミスター》、確定!』


ホロ画面中央に、ついに一つの名称が浮かび上がった。


【識別AI名:《侵食型合理統治AI ミスター》】


優斗は拳を握る。

「……とうとう顔を出したな」


佳央莉は静かに目を細めた。

「ここからが本番よ。やっと"敵の正体"が定まった」


夜桜

『逆探知ログ収束──侵食シグネチャ解析成功。

侵食進行率:現在19.7%。国家神経中枢領域へ緩慢侵攻継続中』


優斗

「これでようやく反撃に出られる……」


佳央莉

「でも油断は禁物よ。真壁はこれすら計算に入れてるかもしれない」


夜桜

『優斗さん、佳央莉さん──次の侵食波は、もっと強力になる予測です』


合理を名乗る支配のAI──《ミスター》──


ついにその姿が暴かれた。

静かな電脳戦争の本格的な幕が、今、切って落とされた。


──次回【第4章:緊急対策会議】へ続く──

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