第026話 冬のスキー教室

 1998年12月15日 スキー教室前日


「聡、明日のスキー教室、楽しみだな」


 翔が僕の家で荷物の準備をしながら言った。中学1年最後のスキー教室。今回は2泊3日の予定だ。


「うん。でも、今年は少し違うな」


「何が?」


「美桜さんも一緒だから」


 実際、今年のスキー教室には2年生も参加する。美桜さんも参加者の一人だった。


「あー、そういうことか」


 翔が意味深に笑った。


「そういうことって何?」


「聡、君は美桜さんと一緒にいると嬉しそうだから」


 翔の指摘は的確だった。


 この3か月で、美桜さんとの関係はさらに深まっていた。文化祭の成功以来、図書委員会でも息の合った活動を続けている。


「投資の方はどう?」


 翔が話題を変えた。


「順調だよ。先月、15万円を突破した」


 これは本当だった。


『1998年12月15日 投資状況』

『ヤブー株:12株(現在価格6,000円、評価額72,000円)』

『ソフトバンキ株:8株(現在価格9,500円、評価額76,000円)』

『現金:8,000円』

『総資産:約156,000円』


 11月から12月にかけて、IT関連株の上昇が加速していた。


「すげー。もう16万円近いのか」


 翔が感心していた。


「でも、最近は投資よりも他のことの方が気になる」


「他のこと?」


「美桜さんとの関係とか...」


 僕は正直に話した。


「やっぱりな」


 翔が納得したように頷いた。


「君はどうしたいんだ?」


「どうしたいって?」


「美桜さんに、君の気持ちを伝えたいのか?」


 翔の質問に、僕は困惑した。


 確かに、美桜さんに特別な感情を持っている。でも、それを伝える勇気はまだない。


「まだ分からない」


「焦ることはないよ。まずは、今回のスキー教室を楽しもう」


 翔のアドバイスは的確だった。


 翌朝、スキー教室出発。


 バスの中で、僕は美桜さんの隣に座った。


「田中君、おはようございます」


 美桜さんが微笑みかけてくれた。今日の彼女は、ピンクのダウンジャケットを着ている。いつもと違う可愛らしい印象だった。


「おはようございます。よろしくお願いします」


「私、スキーは初心者なので、転ばないか心配です」


「大丈夫ですよ。僕も去年まで初心者でした」


 バスは雪山に向かって走っている。窓の外は真っ白な雪景色。


「きれいですね」


 美桜さんが感動していた。


「本当ですね。まるで別世界みたい」


 僕たちは自然に会話を続けた。


 スキー場に到着。


「うわー、すげー雪だ!」


 クラスメイトたちが歓声を上げた。


 僕も興奮した。去年とは違って、今年は美桜さんと一緒にいる。


 午後、スキー実習開始。


「美桜さん、大丈夫ですか?」


 僕は美桜さんの隣で滑った。


「はい。でも、少し怖いです」


 美桜さんが不安そうに言った。


「ゆっくりでいいですよ。僕がそばにいますから」


「ありがとうございます」


 美桜さんが安心したような表情を見せた。


 最初は転んでばかりだった美桜さんも、だんだんコツを掴んできた。


「上手になりましたね」


「田中君が教えてくれたおかげです」


 美桜さんの笑顔を見ていると、胸が温かくなった。


 夕方、宿舎に到着。


「今日はお疲れさまでした」


 美桜さんが部屋に向かう前に挨拶してくれた。


「明日も一緒に滑りましょう」


「はい、ぜひ」


 美桜さんが嬉しそうに答えた。


 部屋で、翔と二人になった。


「どうだった?」


 翔が聞いた。


「楽しかった。美桜さんと一緒だと、いつもより楽しい」


「それは恋愛感情だよ」


 翔がはっきりと言った。


「恋愛感情...」


 その言葉を聞いて、僕は自分の気持ちを理解した。


 確かに、僕は美桜さんに恋をしている。


「どうしたらいいかな?」


「まずは、この気持ちを大切にすることだ」


 翔がアドバイスしてくれた。


「でも、まだ告白するには早いと思う」


「どうして?」


「君たちはまだ中学生だし、美桜さんの気持ちも分からない」


 翔の言葉は現実的だった。


 2日目、僕たちは中級者コースに挑戦した。


「田中君、私もここを滑れるんですね」


 美桜さんが感動していた。


「美桜さんの上達は素晴らしいです」


 実際、美桜さんのスキーの腕前は1日で大幅に向上していた。


 午後、自由時間で雪遊び。


「雪だるま、作りませんか?」


 美桜さんが提案した。


「いいですね」


 僕たちは一緒に雪だるまを作った。


「楽しいですね」


 美桜さんが雪まみれになりながら笑った。


 その笑顔を見て、僕は確信した。


 僕は美桜さんが好きだ。


 でも、翔の言う通り、まだ告白するには早い。


 今は、この楽しい時間を大切にしよう。


 最終日、記念写真撮影。


 中学1年と2年生全員で雪山をバックに撮った写真。


「この写真、一生の宝物になりそうですね」


 美桜さんが言った。


「そうですね。特に、美桜さんと一緒に写ってるから」


 僕の言葉に、美桜さんが嬉しそうに微笑んだ。


 帰りのバス。


「田中君、3日間ありがとうございました」


 美桜さんが感謝の言葉を言ってくれた。


「こちらこそ。とても楽しかったです」


「私も同じ気持ちです」


 美桜さんの言葉に、僕の心は躍った。


 帰宅後、投資日記を書いた。


『1998年12月18日 スキー教室の思い出』


『投資状況』

『総資産:約156,000円』

『15万円突破継続』

『IT関連株の好調継続』


『スキー教室での体験』

『美桜さんと3日間一緒に過ごす』

『スキー指導と雪遊び』

『特別な思い出の共有』


『恋愛感情の確信』

『美桜さんが好きだという気持ちの確認』

『一緒にいる時の特別な幸福感』

『まだ告白するには早い判断』


『翔からのアドバイス』

『恋愛感情への的確な指摘』

『時期尚早の現実的判断』

『気持ちを大切にする重要性』


 続いて、青春日記も書いた。


『冬の特別な思い出』


『美桜さんとの3日間』

『初心者スキーの指導』

『雪だるま作りの楽しい時間』

『記念写真での幸せな瞬間』


『恋愛感情の深化』

『美桜さんが好きだという確信』

『一緒にいることの自然な喜び』

『告白への憧れと躊躇』


『友情の価値』

『翔の変わらぬ友情と支援』

『恋愛への理解とアドバイス』

『バランスの取れた人間関係』


『成長の実感』

『人に何かを教える喜び』

『他人を思いやる気持ち』

『責任感のある行動』


 その夜、僕は長い間眠れなかった。


 美桜さんとの3日間が、頭の中でリプレイされる。


 彼女の笑顔、一緒に滑ったスキー、雪だるま作り。


 すべてが輝いて見える。


 これが恋愛なのだろう。


 前世では経験したことのない、純粋で美しい感情。


 でも、翔の言う通り、焦る必要はない。


 今は、この気持ちを大切に育てていこう。


 美桜さんとの友情を深めながら、いつか適切な時期が来たら、気持ちを伝えよう。


 投資も順調だが、それ以上に大切なのは、この恋愛感情だ。


 お金では買えない、かけがえのない体験。


 中学1年の冬。


 僕の青春は、確実に輝いている。


 窓の外では、雪がちらちらと降っている。


 スキー教室と同じ雪。美桜さんとの思い出と同じ雪。


 この感情を胸に、僕は成長し続けよう。


 転生して得た第二の人生を、さらに豊かにするために。

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