第7話 3体目のモンスター

「私は姫島ひめしま莉菜りな。モンスターは天使のエルナ。よろしく」


 肩にかかるかどうかという長さの黒髪ボブの毛先だけが、赤く染められている。

 中学時代は読者モデルとして活動しており、ファッション誌に登場していたこともある。

 高校進学をきっかけに、今は活動を休止している。


「俺は二階堂にかいどう郁斗いくと。中学の頃はゲーム配信してたから知ってる人もいるかも。モンスターは妖狐のコン。これからよろしく!」


 明るめのブラウンをベースにした髪には、数本のアッシュグレーのメッシュが入っていて、全体はきっちりとワックスで立体的に整えている。

 ゲーム配信者としてかなり有名で、とあるゲームでの実力はプロにも匹敵する。

 実際には、大会でプロに勝ったこともあるほどだ。



「――最後は私ね。1年B組の担任 市川いちかわあいです。担任を持つのは初めてで不安もあるけど、みんなと一緒に頑張っていけたらと思います。これから1年間よろしくお願いします」


 最後に先生が自己紹介をした。

 正直、姫島さん、二階堂くんと有名人が二人もいたから他のクラスメイトの自己紹介が頭に入ってない。

 ……これからどうしよ。

 二人以外名前すらわかんない。


「自己紹介が終わったところで、一つ連絡事項を共有します。来週の月曜日から『Let's Monster Battle』の新入生代表トーナメントが始まります。参加は任意となります。参加する方は今週中にエントリーしてください」


 新入生代表トーナメントに出場するには、Fランクに昇格していないといけない。

 とりあえず、3体目のモンスターを仲間にしないとな。


「他に連絡事項は……特にないかな。うん。今日はこれで終わりです。明日から授業が始まりますので、忘れないように。……えっと、解散!」


 市川先生が手をパチンと叩き、教室から出て行った。




「ねえ、鬼灯くん、ちょっといいかしら?」


「……えっ、ひ、姫島さん!? 何かな?」


 この後、近場のダンジョンに行こうと思ってスマホで調べていたら突然、姫島さんに声を掛けられた。


「新入生代表トーナメントに出る?」


「……え?うん。一応、そのつもり」


「そっか。直接 戦えるのを楽しみにしてる」


 え、え、え、何!?

 どういうこと?

 ……これって宣戦布告ってやつ?

 いや、さすがに違うか。


「早速、宣戦布告されてるな。俺も便乗しよ」


 今度は二階堂くん!?

 姫島さんだけじゃなく、二階堂くんも何でオレのとこ来るの?


「まさか同じクラスになるとは思わなかった。これも何かの縁かな」


「ちょ、ちょっと待って!? これどういう状況!?」


「ああ、もしかして見てない?昨日のモンスターニュースの新人部門」


 昨日のモンスターニュースの新人部門――あ、これか。

 ……ん?なにこれ!?


 スマホで確認したら、"前代未聞! Gランクの新人がスライム1体でFランクダンジョン攻略!"って見出しで取り上げられていた。


 オレの名前は載ってないけど、自己紹介の時にモンスターはスライムのブルーって話したからな。

 名前を付けられてるスライムってとこで、この記事のプレイヤーがオレだって気付いたのか。


 これ、他のクラスメイトにもバレバレなやつじゃ……


「一つ聞きたいんだけどさ、何でスライム1体で挑戦したの?縛りプレイか何か?」


「勢いでボスに挑戦したら瞬殺されて、それが悔しくて。それでLv上げをしてその日の内にリベンジしただけだよ」


「いやいやいや!なんかそんな凄くない感出してるけど、実際凄いよ。それでその日の内にボスにリベンジを果たすとか普通できないから!」


 うーん、そうなのかな……?

 そう言われても全然実感が湧かない。


「あ、そうそう。新入生代表トーナメントに出るってことはちゃんと間に合わせるってことだよな?」


「うん。そのつもり。一応、あと1体仲間にしたらFランク」


「なら大丈夫そうだな。直接 戦えるのを楽しみにしてるから!」


 満面の笑みで姫島さんと同じことを宣言する二階堂くん。



 ものすごいプレッシャーの中、オレは近場にあるFランクダンジョン『見晴らしの草原』に向かった。

 ここで3体目のモンスターを仲間にして、今日中にFランクに昇格する。


 ブルーとスケルトンナイトを召喚してからダンジョンに入ると名前の通り、見晴らしがいい草原が広がっていて、風が草を波のように揺らしていた。


 ここにはウルフ系のモンスターが多く出現する。

 ウルフ系は多種多様な進化先があって、強くなる。

 初心者にオススメのモンスター筆頭角。


 少し進むと4体のウルフと遭遇し、こっちに向かって来た。


「先手必勝!ブルー『ファイアボール』『フレイムアロー』!スケルトンナイト『閃撃』!」


 距離を詰められる前に遠距離攻撃で少しでも削ろうと思ったけど、全て回避された。


 ……さすがに今のは単調だったか。

 先手を取ろうって意識しすぎた。


「スケルトンナイトはウルフを前衛で引き付けて盾で攻撃を凌いで!ブルーはスケルトンナイトが漏らしたウルフに『フレイムアタック』!」


 スケルトンナイトは、多少ならHPを削られても『魂葬』で回復できる。

 だから前衛として少し無茶な立ち回りも頑張ってもらう。


 スケルトンナイトが前衛、ブルーが後衛と役割分担をしたけど、最初はぎこちなかった。

 危うくブルーのダメージが蓄積してHPが0に……

 そこはスケルトンナイトがすぐさまフォローに駆けつけてくれたからなんとかなった。


 ブルーのHPがほとんど残ってないのもあって、今日は早々に帰ることにした。


 家に帰って、いろいろ考えた結果、ここでウルフを召喚することにした。


 目の前に2枚の魔法陣が出現した。

 下の魔法陣の上に草木が生えて徐々に増殖し、その影からウルフが姿を現した。


【鬼灯蓮のプレイヤーランクがG→Fになりました】



 名前:名前未設定 Lv1

 種族:ウルフ

 カテゴリー:一般種

 HP:50

 物理攻撃力:6

 物理防御力:3

 魔法攻撃力:0

 魔法防御力:2

 素早さ:12

 SP:0


《スキル》

『体当たりLv1』『引っ掻くLv1』『噛み付くLv1』



 防御力は低いけど、素早さはかなり高い。

 進化したり、SPを素早さにそこそこ割り振ったブルーでも10なのに、それよりも高い。


 基本的な立ち回りは、スケルトンナイトが前衛でタンク、ブルーが後衛でアタッカーは変えずにウルフを前衛というか遊撃みたいな感じで入れたらいいかな。

 そうすれば、さっきみたいにブルーがピンチに陥ることもなくなると思う。

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