外れギフトと思ったぬかにくぎにしっかり手応えがあったのだが
工程能力1.33
1章
第1話 外れギフト
マルクスの前世の記憶、それが思い出されたのは3歳の時だった。
少年はヌーヴォー・ソレイユ王国という中世ヨーロッパ風の国にマルクス・フォン・ギルマンとして生まれた。ギルマン家は公爵と近衛騎士団長を兼任する父、バルタザール・フォン・ギルマンの教育方針により、3歳より剣術の稽古が開始される。
その際、頭部に強烈な一撃をもらったマルクスは気絶し、その際におぼろげな前世の記憶を夢で見た。日本に生まれ、わりと普通の人生を送り、死んだ理由はわからない。ただ、普通の人生だったが故に、何者かになりたいという気持ちがあったことは思い出した。
さて、この世界であるが、神から時折ギフトを授かる者がいる。マルクスの父などは、剣神という剣士の最高峰のギフトを授かっており、そのおかげもあって近衛騎士団長の地位を得ていた。
ギフトとは適性のようなものであり、剣士系のギフトを授かると、剣の腕が上昇しやすくなる。また、そのランクに応じてスキルが使えるので、ギフトを持たぬ者とは大きな差が出来る。
このギフトは5歳から10歳のあいだに授かることが殆どであり、それも王侯貴族に多い。ゆえにこれが王や貴族の身分が高いことの証拠とされていた。
ギルマン公爵家は代々剣士系のギフトを授かっており、その中でも一番優秀なものが後継者となるのが慣例となっていた。
なので、バルタザールも三人妻をめとり、子作りに励んでいた。
一人目の妻はオリビア。子供が三人おり、長男のゲオルグは5歳で剣聖のギフトを授かった。
剣聖は剣神に次ぐ上位のギフトであり、剣神が100年に1人でるか出ないかということを考えれば、跡継ぎの最有力候補であった。
二人目の妻はマルクスの実母でもあるエリザベート。
マルクスの姉、ユリアはゲオルグと同い年であり、彼女は剣聖の一個下位にあたる剣皇のギフトを同じ時期に授かっていた。剣皇も希少なギフトであり、将来を期待されていた。
このユリアは重度のブラコンであり、マルクスのことをとても可愛がっていた。
マルクスが気絶から目を覚ますと、涙を流して目を真っ赤にしたユリアの顔が飛び込んできた。
「マルクス、良かった目を覚ましたのね」
そう言って抱きしめるユリア。マルクスと同じ栗毛からはとても良い匂いがする。5歳にして将来美人になるのが確定している整った顔の少女に抱きしめられると、前世の記憶のせいかドキッとした。
そして、実の姉であるということで平静を取り戻す。
ただ、その後ろで失望のまなざしでこちらを見る父バルタザールに気づいた。
彼は3歳であるという事情を考慮せず、頭部への一撃を許したマルクスに失望していたのだ。この日を境にバルタザールの態度が冷たくなる。これが単に3歳児であれば気が付かなったであろうが、前世の記憶がよみがえったことで、マルクスに気づかせることになった。
(この家に居づらい……)
そう思うマルクスであった。
それから二年が経過し、異母兄弟で同い年のエルマーがギフトを授かる。それは剣豪であった。剣豪は下から二番目、剣士というギフトの上であり、剣豪程度であればギフトの無い人間でも、同じくらいの強さまでのぼることが出来る。
「要らぬな。養子に出すか」
バルタザールは子供の前でも容赦なく言い放つ。
折角のギフトであるが、エルマーはバルタザールからしてみれば期待外れであり、すでに剣聖の長男がいるので必要が無かったのである。
結局、適当な家が見つからないので、そのままいることになったのだが、これを機にエルマーはマルクスに対して当たりが強くなる。
そこにはお前は俺以下のギフトになれという強い思いが込められていた。
そんなマルクスもすぐにギフトを授かる。
体の中心が温かくなり、「ギフトを授けよう」という声が聞こえた気がした。それをバルタザールに伝えると、太陽教の教会に連れていかれた。
太陽教とはこの国の国教であり、ギフトの判定がそこで行われる。
教会はゴシック様式の建物であり、カラフルなステンドグラスが使われていた。観光気分のマルクスであったが、この後の判定でエルマーのように父の期待にそぐわなかった場合、どうなってしまうのだろうかという不安がよぎる。
(どんなギフトなんだろう?)
そう思いながら、司祭っぽい老人の顔を見る。彼は笑顔を返すが、どうにもそれが脂ぎっており、父が多額の献金をしていると直感した。
その後、石板が持ち込まれてきた。
「ここに手を」
と、老人に言われたので、手を置く。
バルタザールも老人もマルクスの手を凝視した。
「これはっ!」
老人が驚く。
バルタザールが問う。
「何だ?」
「わかりませぬ」
「わからぬだと?」
バルタザールが怪訝な顔で老人を見た。
老人はふうと大きく息を吐いて、恐る恐るといった感じでバルタザールを見た。
これには、マルクスも良くないことが起こったのだとわかる。
「ギフトは『ぬかにくぎ』でございます。こんなギフトは初めてでして」
「なんだそれは!」
バルタザールが怒鳴ると、老人は小さくなった。
ヌーヴォー・ソレイユ王国では米は一般的ではなく、ぬかというものが知られていない。マルクスは前世の記憶で知っているが、他のものたちがその意味を知ることなどなかったのだ。
結果、マルクスは養子に出されることになった。
母エリザベートの生家であるハインリッヒ伯爵家は、子供がエリザベートしかいない。なので、跡取りの男児を欲していた。
マルクスをいらないというギルマン公爵家と、男児が欲しいハインリッヒ伯爵家の思惑が合致したのである。
こうしてマルクスは祖父母が養父母となったのである。
【後書き】
リアルな知り合いに、普通の転生もの書けるの?って言われたので、普通っぽいのを書きます。
異世界転生小説なのに、ベトナム戦争の時のアメリカ兵の死体を横浜で縫合していた話とか、仕事の愚痴とか、過度なサブカルチャーのパロディとか出てきません。小説を読む前提知識として釘師サブやんとか必要ないです。あと、農業も芋とか豆、輪作なんかがありふれているので、クラゲを使おうとかもしません。平民は勉強をしたいと思っており、学校さえ作れば真面目に勉強します。銀行、保険、先物、株などの金融知識も異世界に持ち込めばなんか知らないけど上手くいきます。商品先物で買い占めするような悪人なんて出てこないし。って、他の作品に喧嘩を売っているわけではありません。
普通のチートハーレムです。専門用語の知識とか無しに読める作品です。たぶん
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