第17話 憧れの私と、秘密の補正
私は鈴木恵子。30歳。主婦。
今日、私は「若返り」に挑戦する。
別に、夫に褒められたいわけちゃうし!
私の定位置は、リビングのソファ。
家事の合間に、スマホでママ友のSNSを見るのが日課。
みんな、おしゃれで若々しい。
それに比べて、私は…。
出産と育児で体型は崩れ、
特に、昔はあったはずのバストのハリが、
すっかりなくなってしまった。
「別に、もう若くないし、仕方ないか」
口ではそう言って、諦めていた。
でも、鏡を見るたびに、ため息が出る。
昔着ていた服も、なんだか似合わない。
それが、今の私の大きな悩みだった。
だけど、今日だけは、違った。
ママ友のSNSで、ある投稿が目に留まった。
『産後も自信! 魔法の補正下着』
そこに写っていたのは、
まるで別人みたいに、バストにハリのある女性の姿。
レースがふんだんに使われた、
エレガントな補正ブラとパッド。
こんなの、私には縁遠いものだと思ってたのに。
なぜか、その補正下着が、きらきら光って見えた。
私を呼んでるみたいに。
これだ。
直感が、ビリビリと震えた。
これならきっと、私を「新しい私」に変えてくれる。
スマホの画面を凝視する私の指先が、
購入ボタンの上で、小刻みに震え、汗ばんだ。
心臓はドクドクと、けたたましい警鐘を鳴らす。
「こんな本格的なの、私に必要?」
「どうせ、すぐに効果なんて出ないのに、無駄遣いになるだけやろ」
「夫にバレたら、なんて言われるかな?」
自己否定の言葉が、嵐のように脳裏をよぎる。
指が止まる。
頭の中では「やめとけ」って言うてる。
でも、心の奥底で、
「私、本当は、もう一度自信を取り戻したい!」
という、純粋で、強い衝動が湧き上がってきた。
それが、私の本音だった。
「がんばれ、私! このチャンス、掴むんや!」
小さく震える指先で、意を決して、
「ポチッ……」
購入ボタンを押した。
画面が切り替わり、「注文完了」の文字。
心臓が、大きく跳ねた。
顔が、耳まで熱くなる。
こんな本格的な補正下着。
生まれて初めて、ポチってしまった。
届くまでの数日間は、ソワソワしっぱなし。
家事の合間も、ふとした瞬間に補正下着のことを考えてしまう。
頭の中を、レースの補正ブラが、
ひらひらと舞う。
まるで、私じゃない誰かが、
私の中で、そわそわしてるみたいだ。
そして、ついに、その日が来た。
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
慌てて玄関に出ると、
宅配業者さんが笑顔で立っていた。
小さな段ボール箱を受け取る。
夫や子供たちに見られないように、
自分の部屋に駆け込んだ。
まるで、悪いことでもしたみたいに。
丁寧に、セロハンテープを剥がす。
蓋を開ける。
ふわり、と。
新品の布の匂いがした。
箱の中から取り出したのは、
私がポチった、エレガントな補正ブラとパッド。
繊細なレースが施されている。
指でそっと触れる。
しっかりとした生地の感触。
こんな下着で、私、本当に変われるんだろうか。
胸の奥が、熱い。
期待と、ほんの少しの不安。
混ざり合った、不思議な感情が、胸の奥で渦巻く。
部屋の鍵をカチリ。ガチャリ。
二重にロックする。
ゆっくりと、いつもの下着を外す。
そして、新しい補正ブラとパッドを身につける。
ひんやりとした感触が、肌に触れる。
ああ。
なんてことだ。
驚くほどのホールド感と、自然なボリュームに、感動した。
バストがしっかりと持ち上がり、ハリが戻ったみたい。
これなら、昔の服も着られる…!
鏡に映ったのは、いつもの私じゃない。
少しだけ、若返って見える気がする。
「これなら、いける…!」
思わず、そう呟いた。
意気込む一方で、不安もよぎる。
「こんなに盛って、夫にバレないかな?」
「無理してるって思われたらどうしよう?」
そう思ったら、急に顔が熱くなった。
その日の夜。
夫が帰宅し、いつものように食卓を囲む。
私は、新しい補正下着を身につけている。
夫は何も言わない。
いつもと変わらない日常。
でも、私は内心ソワソワしていた。
夫の視線が、いつもより胸元にある気がして、
ドキドキが止まらない。
食後、夫がテレビを見ている間に、
こっそり鏡で自分の姿を確認する。
ブラのラインが、服の上から響いてないか、
不自然に見えてないか、気になって仕方ない。
誰からも直接指摘はない。
でも、「もしかして、気づかれてる?」
そんな被害妄想に陥りそうになる。
それでも、翌日、昔着ていたワンピースを引っ張り出した。
補正下着のおかげで、綺麗に着こなせる。
外出先で、ママ友に会った。
「恵子ちゃん、なんか今日、雰囲気違うね! 若返ったみたい!」
その言葉に、胸が熱くなった。
「べ、別に、そんなことないよ」
と、照れながら答えたけれど、
心の中では、小さなガッツポーズをしていた。
「ちょっとだけ、変われたかも」
小さな手応えを、そっと掴んだ。
この補正下着が、私を新しい世界へ連れて行ってくれる。
そう、信じて、また明日も一歩を踏み出すんだ。
ポチって、よかった。
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SNS
恵子のママ友(サトミ)のつぶやき
今日、恵子ちゃんに会ったんだけど、なんか雰囲気が変わってた! バストアップした? めっちゃ若々しくなってて羨ましい! 私も何か始めようかなー。
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【次回予告】
悩み相談です。私は山田京子。40歳。長年、事務職として働いてきました。最近、デスクワークで猫背になりがちで、姿勢の悪さが気になっています。昔のようなスラリとした姿勢を取り戻したいけど、無理な矯正下着は苦しくて続きそうにないんです。姿勢を自然にサポートしてくれるパッド付きのインナー、オンラインで「ポチる」勇気を出してみたけど、これ、本当に効果あるのかな? 締め付け感、大丈夫かな? 結局、苦しくて挫折しないか心配です。私、美しい姿勢を手に入れられるんでしょうか?
次回 第18話 姿勢と自信の秘密兵器
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