第15話 スポーツブラと新たな挑戦

私は吉田遥。25歳。会社員。

今日、私は「苦手」に立ち向かう。

別に、誰かに見られてるわけちゃうし!


私の定位置は、会社の給湯室。

いつも誰かの愚痴を聞いてるか、

休憩時間にスマホをいじってるか。

運動なんて、大嫌いだった。

学生時代からずっと。

「別に、運動とか好きちゃうし、デブでもええわ」

口ではそう言って、運動を避けてきた。

でも、最近の健康診断の結果。

数値を見て、愕然とした。

このままじゃ、本当にヤバイ。

そう、認めざるを得なかった。


だけど、今日だけは、違った。

重い腰を上げて、ジム通いを決意したんだ。

し、仕方なくやで?

別に、痩せたいとか、そういうわけちゃうからな!

とりあえず、形から入ろうと思った。

でも、いざ運動しようとすると、

普通のブラじゃ胸が揺れて、気になって仕方ない。

これじゃ、運動に集中できない。

それが、今の私の大きな悩みだった。


スマホを手に取る。

オンラインショップを開いてみた。

ジムのチラシに載っていた、

高機能なスポーツブラと、

専用パッドのセットが目に留まる。

真っ黒で、いかにも本格的。

こんなの、私には縁遠いものだと思ってたのに。

なぜか、そのスポーツブラが、きらきら光って見えた。

私を呼んでるみたいに。


これだ。

直感が、ビリビリと震えた。

これならきっと、私を「新しい私」に変えてくれる。


スマホの画面を凝視する私の指先が、

購入ボタンの上で、小刻みに震え、汗ばんだ。

心臓はドクドクと、けたたましい警鐘を鳴らす。

「こんな本格的なの、私に必要?」

「どうせ三日坊主で終わるのに、もったいないやろ」

「高すぎひんか? 無駄遣いになるだけやんか!」

自己否定の言葉が、嵐のように脳裏をよぎる。

指が止まる。

頭の中では「やめとけ」って言うてる。

でも、心の奥底で、

「私、本当は、健康になりたい!」

という、純粋で、強い衝動が湧き上がってきた。

それが、私の本音だった。

「がんばれ、私! このチャンス、掴むんや!」

小さく震える指先で、意を決して、

「ポチッ……」

購入ボタンを押した。

画面が切り替わり、「注文完了」の文字。

心臓が、大きく跳ねた。

顔が、耳まで熱くなる。

こんな本格的なスポーツブラ。

生まれて初めて、ポチってしまった。

届くまでの数日間は、ソワソワしっぱなし。

仕事中も、ふとした瞬間にジムのことを考えてしまう。

頭の中を、黒いスポーツブラが、

ひらひらと舞う。

まるで、私じゃない誰かが、

私の中で、そわそわしてるみたいだ。


そして、ついに、その日が来た。

ピンポーン。

インターホンが鳴る。

慌てて玄関に出ると、

宅配業者さんが笑顔で立っていた。

小さな段ボール箱を受け取る。

誰にも見られないように、

自分の部屋に駆け込んだ。

まるで、悪いことでもしたみたいに。


丁寧に、セロハンテープを剥がす。

蓋を開ける。

ふわり、と。

新品の布の匂いがした。

箱の中から取り出したのは、

私がポチった、高機能スポーツブラとパッド。

真っ黒で、シンプルだけど、洗練されている。

指でそっと触れる。

しっかりとした生地の感触。

こんな本格的なウェアで、

私、本当に運動できるんだろうか。


胸の奥が、熱い。

期待と、ほんの少しの不安。

混ざり合った、不思議な感情が、胸の奥で渦巻く。

部屋の鍵をカチリ。ガチャリ。

二重にロックする。

ゆっくりと、いつもの服を脱ぐ。

そして、新しいスポーツブラとパッドを身につける。

ひんやりとした感触が、肌に触れる。

ああ。

なんてことだ。

驚くほどのホールド感に、感動した。

胸がしっかりと固定される。

これなら、動ける…!

鏡に映ったのは、いつもの私じゃない。

少しだけ、引き締まって見える気がする。

「これなら、いける…!」

思わず、そう呟いた。

意気込む一方で、不安もよぎる。

「こんなガチなの、ジムで浮かないかな?」

「素人なのに、無理してるってバレる?」

そう思ったら、急に顔が熱くなった。


初めてのジム。

受付を済ませ、ロッカールームへ。

着替えて、ジムエリアへ足を踏み入れる。

周りの視線が、気になって仕方ない。

みんな、体が引き締まってて、

いかにも運動してます、って感じの人ばかりだ。

特に、汗をかいた後、パッドがズレてないか、

形が崩れてないか、気になって仕方ない。

トレーニング中に、ふと鏡を見ると、

以前より自信なさげな自分と、

しっかりホールドされた胸元が目に入る。

誰からも直接指摘はない。

でも、「もしかして、みんな私を見て笑ってる?」

被害妄想に陥りそうになる。


それでも、一つ一つのマシンを、

トレーナーに教わった通りにこなしていく。

汗が、じんわりと額から流れ落ちる。

きつい。もう無理。

そう思った時、スポーツブラのホールド感が、

私を支えてくれているように感じた。

トレーニング後、シャワーを浴びて、着替える。

体が軽くなった感覚と、

汗を流した爽快感に、包まれる。

「ちょっとだけ、がんばれたかも」

小さな達成感を、そっと掴んだ。

このスポーツブラが、私を新しい世界へ連れて行ってくれる。

そう、信じて、また明日も一歩を踏み出すんだ。

ポチって、よかった。


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SNS


ジムの受付スタッフ(高橋)の日記


今日、新しい方が入会された。最初は少し戸惑っていたようだけど、最後まで頑張ってトレーニングされていた。私も頑張ろう!


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【次回予告】


悩み相談です。SNSで「映える写真」を投稿するのが生きがいの私、宮本麗奈。でも、自身の華奢な体型、特に胸の薄さが、理想の「映え」から遠くて悩んでいます。夏休みのビーチ旅行に向けて、超ボリュームアップのパッド入り水着をオンラインで「ポチる」勇気を出してみたけど、こんなに盛ってバレへんかな? 実物見たら引かれるんちゃう? なんか、無理してる感、出ちゃうかな? 私、最高の「映え」を演出できるんでしょうか?


次回 第16話 盛りすぎ? ビーチの誘惑

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