22話 神級魔導具ってなぁに(後編)


「おいしい……値段が高いだけあるね……」



 きらきらした目でソフトクリームを頬張るアオ。



「それ、ここの食堂でも最高級だし……貴族の僕でもソフトクリームにそんな大金を払ったことはないなぁ。というか、ソフトクリームの味ってそんなに変わるの?」


 彼女を見ながら、植田が言う。

 千草に案内をしてもらっていたら、途中で植田、広夜麻、阿流間と合流したのだ。陽キャグループのような雰囲気に、千草は少し萎縮している。


「高級パフェを食す霧山さん……美しい」


「味が落ちる。静かにして」


「甘味に厳しいな!?」


 わいわいと盛り上がるなか、千草は口を開く。


「それはそうと、次の授業って、魔法実技だよな? もう少し急いだ方がいいと思うよ」


「はひょむひうひ!?」


「まず食べ終わってから喋れ、まじで何言ってんのかわからんから」


 冷静に千草がツッコんだ。アオは食べていたのを一気に飲み込むと、千草に身を乗り出す。


「次、魔法実技? 魔導具は使用できる? 模擬戦やる???」


「う、うんやるよ!! みんな杖も持ってる」


「そういえば、今日はあの特課A組と合同だったよな!!」

「そうそう、すごい強くてさ!!!」


「あ、阿流間!! 広夜麻このバカ!!」


 千草は慌てて言葉をつなぐ。



「こいつの模擬戦、えぐいんだよ……」



 不思議そうな顔をしていた3人だが、アオの表情を見て千草の言いたいことを正確に理解し、顔を引き攣らせる。

 アオは、滅多に見せない好戦的な満面の笑みで、体に強い魔力を漂わせていた。







 校舎とは少し離れた場所にあり、その敷地は更に広い。


「体育館か。広いね、まるで訓練場みたいだ」

「訓練場?」


 不思議に思った阿流間が、杖を肩に担ぐアオに訊いた。訓練場は国防軍基地内にある施設。バレてはいけないので、彼女は言葉を濁した。


「いや、こっちの話」


 アオ、千草、植田、広夜麻、阿流間が5人で雑談していると、体育館の入り口で話し声が聞こえてきた。


「あの子たちは?」


 アオが静かに植田に聞いた。


「一年A組。特別課外クラスって呼ばれてて、成績が高い上級貴族が集まってるんだ。まぁマイペースな人たちばかりだから、あまり好まれてはいないんだけどね……」



「うっわボロくさいなぁ……B組」


「底辺貴族と合同なんて意味ないよ。特に目立ったやつもいないんだし」


「それなぁー、イキらないでほしいよね」



「ちょっと!! 入ってきて早々にそれはないんじゃないの!?」



 阿流間が叫ぶと、先頭に立っていた生徒が鼻で笑う。


「仕方ないだろ。お前らが弱いんだし」


「あ、あのねぇ!!!」


「やめなよ、あかり」



 反論しかけた阿流間をアオが制止する。


──驚くほどではないけど。特別視される程度の実力はありそう、か。



「お前誰だ?? 見ない顔だな」


「あっ、あの子、校門でみたよ!! イケメン執事に黒塗りの車で送り迎えされてる、転校生!!」


 隣にいた女子生徒が声を上げた。


「イケ……んんっ……たしかに……」


 執事の市川を想像してツボる。確かに見た目だけ見れば執事にも見えるが、あんなに強いマフィアの執事がいてたまるか。

 冷静になったアオは人当たりの良い笑みを浮かべてA組一同の前に立った。


「うん、昨日転校してきたんだ。……でも、私が誰か聞く前に君が先に名乗るべきじゃないかな?」


 黒塗りの車、と執事という単語から、なにやら察したその生徒は静かにアオに頭を下げる。胸に手を当てて静かに瞼を閉じた。


「これは失礼した。まさかあなたも貴族だったとは。俺は寒河江日祀サムガエ ヒマツという。この美少女は菅沢桜カンザワ サクラだ。以後よろしく」


 隣の女子生徒を美少女と絶賛しながら、寒河江が名乗った。


「寒河江、か。珍しい名前だね。まぁ私、正確には貴族じゃないけど……私は霧山碧、よろしく?」


 アオが名乗った途端、ぴくり、と彼の眉が動く。

 国防軍の地位は国内で貴族と同等ではあるが、貴族としての階級は持っていない。



「霧山……か。とにかく、お前らの実力は模擬戦で証明してもらえるかな」


「なによ!! 今回ばかりは負けないんだから!! ね、碧ちゃん!」



 寒河江の発言に阿流間が対抗する。アオは完全に無視して思考に走った。


──私の名前で、明らかに反応した……上級貴族だから国防軍内の情報も知っているのか?



「碧ちゃん?」


 阿流間が考え事をしていたアオを覗き込む。


「あぁ、そうだね。負けないよ」


「ちょっと、にい……ひまくん、あんまり強く言わないでよ。嫌われちゃうでしょ」


 菅沢が寒河江の袖を軽く引きながら小声で言う。すると、寒河江は優しく微笑み、


「桜ちゃんは優しいね。でも模擬戦に遠慮はいらないよ。特に今回は、油断してたらこっちがやられるかもしれないしね」


「ひまくんは負けないよ!! 私信じてるから!!!」


「桜ちゃん……なんて良い子なんだ…」



「うわぁ、また始まったよ……」


 A組の生徒が見飽きたように目を逸らした。この甘い光景はいつもの事らしい。



「えぇ、なにあの2人。距離近すぎない?」



 眉を少し上げ、少し嫌悪を表したような表情で、千草が呟いた。

 タイミングが良いのか悪いのか、授業開始のチャイムが鳴る。2人の教師が体育館へ入室。



「ははは、すでに模擬戦が始まっているような雰囲気ですね……」

「元気がいいのは良いことだが」



「全員、整列!!」



 大きくはっきりとした声が響いた。

 A組とB組に別れて整列。ワンテンポ遅れてアオも皆に続いた。




「「A組B組合同、魔法実技を始める!!」」


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