19話 信用の果て(前編)
「うわぁ!! りーだーが帰ってきた!!!」
「誠治郎リーダーおかえり!!」
「おかえりなさい、リーダー!!」
南本についていき、"家"と呼ばれる場所につくと大人数の子供たちが一斉に歓喜の声をあげる。幼い子供から、千草と同年代ぐらいの子供まで様々だった。
「ここが、"家"」
「そうだ。ここでは俺は不良グループのリーダーってことで通してる。ここにいる子供たちのほとんどは、政府や貴族に貶められた孤児ばかりだからな」
子供たちに肩によじ登られながらも、淡々とした口調で南本は話す。
「てめー、新入りかよ?」
遠くで様子を伺っていた茶髪の少年が千草を睨みながら言った。千草と同年代か、少し年上に見えた。
「新入りだ。10歳で、千草界という。仲良くしてやってくれ」
「まだ俺の意見言ってないんだけど!?」
既に"家"の仲間になることが決定されていたことに千草は驚くが、そんな千草を興味ありげに少年が見る。
「へぇ、俺はアキ。ここの最年長で11歳。
つまり、てめーより年上な?? 俺は新入りにイキられんのが嫌いなんだよ!! 言いたいことわかるよな?」
「……何が言いたいんだ?」
「俺の言うことは絶対だ!! そんでもってリーダーの言うことはもっともっと絶対だ!! いいな!?」
「心配しないでいいよ。アキは理不尽なことは言わないから。つーか誠治郎リーダー絶対マンなだけだよ」
「ちょ、言うんじゃねーよ
哀羅と呼ばれた少女は千草にそう耳打ちしてきた。その平和なやりとりに、千草は思わず笑みを浮かべる。
「な、なに笑ってんだよ気持ちわりーな」
そう文句を言いながらも、心から嫌がってはいない様子のアキ。
(信用し合ってて、それを疑わない。
微笑ましいぐらい良い友達。俺も、その輪に)
「ごめんごめん。これからよろしくな。アキ、哀羅」
数日ぶりに心から笑った彼の笑顔は、
晴れ空のように明るかった。
それから彼は"家"で日を過ごした。
壁には落書きがあるが、子供たちはそれを楽しそうに描き加え遊んでいる。食事は質素で味気ないが、みんなで分け合って食べていた。
そして子供たちが暖かく迎えてくれた。
特にアキ、哀羅とはすぐに仲が良くなり、"家" の不良グループ"ゾンビ"と共に、町の悪童たちを絞めていった。
いつしか"貴族狩り"という異名が広がり、
町で知らない者はいない程の、不良となる。
事が起こったのは、千草が"家"に住んでから2年後のことだった。
「りーだーが、行方不明になった」
"家"に帰ると、少年が開口一番に告げた。
「どういうことだよ?」
アキが、少年に訊いた。
千草とアキは、千草の母の見舞いに行っていて、5日間“家”を空けていたのだ。
「一昨日の朝、仕事に行くって言ったきり、帰ってきてないんだ。雨の中、傘も差さないで。それに……」
言葉を濁す少年の代わりに隣に立つ少女が告ぐ。
「わたし、いってらっしゃいって言ったの。そしたら……『明日、俺が帰らなかったら、アキと哀羅、界にみんなを頼むって伝えてくれ』って…」
まるで遺言のようなその言葉を聞き、部屋の隅で哀羅は、歯を食いしばる。
「きっと、何かあったんだよ!!! 昨日、誠治郎リーダーがいそうなとこ、みんなで探したけど見つからなかった!! 2人は心当たりないの!? あるなら教えてよ!!!」
「……知らねぇ……。何年も一緒にいるのに、リーダーのこと俺、なにも……」
アキが膝から崩れ落ち、沈黙が部屋を支配する。
“家”の子供たちの恩人であり、心の拠り所である南本が行方不明となった。
その子供たちを混乱と絶望に貶めるには十分すぎる情報だった。
「最近、国防軍が基地の周りを巡回してるって話を聞いたんだよな……それに巻き込まれてたり……しないよな?」
「んなわけ……」
そう言いかけて千草が目を見開く。
(心当たり……まさか……)
千草は口元を抑え、体がよろける。
それを少年が支えた。
「お前達もりーだーがいなくなって混乱してるんだろ……ちょっと、休め」
その日の夜、土砂降りの雨の中。
千草は“家”から飛び出し、走る。
(ニュースで、基地が襲撃されたって聞いた。
もし南本サンがそこにいたとしたら)
着いたのは、惨状となった国防軍基地だった。そこは魔族や魔獣が倒れていて、血が雨と混ざって赤い海と化している。
「おい!! そこで何やってる!?」
千草を見つけ注意した、門番として立っている隊員に、掴みかかる勢いで叫ぶ。
「南本サンは!! 南本誠治郎は無事なのか!?」
「南本っ!? 第零部隊を、副隊長を知ってるのか…?」
「この子、まさか副隊長が保護してるっていう“家”の……?」
明らかに何か知っている門番に大声を出す。
「そうだよ!! っだから早く吐け!!
南本誠治郎は、どこにいるんだ!!!!??」
もう、わかっていた。
南本という名前を出した時の、隊員の表情。
千草は、否定したかった。
それでも、現実は変わらない。
隊員は帽子を深く被り、小さく丁寧な礼。
「南本副隊長は、侵入した鬼人と果敢に戦い──、」
「戦死された」
激しいはずの雨の音がおさまり、
その言葉だけが俯いた彼の耳に響いた。
「教えてくれて……感謝します……」
やっとのことで絞り出した声は掠れ、
来た道を戻る足は鉛のように重い。
何度も転びかけながら、静かに歩く。
基地から出ていく姿を2つの影が見ていた事に、千草は全く気づいていなかった。
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