17話 魔高1年B組(後編)
「千草、界くん、だよね?」
屋上まで追いかけたところで、アオが声をかける。
「なんでついてくるの」
睨むような表情で振り向き、千草は言った。表情が曇り、険しくなる。アオを睨みつけた。
「まさか江山の差し金とかじゃないよね?」
弁当箱が入った包みを握る手の力が無意識に強くなっている。そして微かに震えていた。
「単刀直入に言おうか───」
アオは千草の様子など気にも留めずに彼に訊く。
「なんでいじめられてるの?? そんなに実力があるのに」
「霧山さんも見たよね。僕のテストの点数は20点だし、あの2人には逆らえない……」
「テストは90点以上、魔力も高い。なんで隠す必要がある?」
「ええっ?? 何を言ってるの……?」
彼は眉を顰め、白々しく困ったように笑う。
「そんなに賢かったらなにも苦労してないよ」
アオの目がじっと細まった。探るような目線で千草に詰め寄る。
「じゃあ君の解答用紙にあった書き直し跡はなんなの?」
その言葉聞き、途端に表情が固まった千草は、舌打ちをした。猫を被っていたかのように。
「……あのさ」
「逆に聞くけど、それをお前に言う必要ある?? 関係ないよな、クソ貴族の天才には……もう、黙ってろよ」
吐き出すように言い放ち、アオを通り過ぎて屋上から出ていく。彼女はしばらく呆然と立っていたが、口元を手で隠した。
抑えきれない笑いと好奇心を隠す、
「………面白いじゃん」
低く囁くような声だった。
昼食は阿流間、植田、広夜麻の3人と食べて、5限目となる。
箒に乗る授業。
魔法師にとって、空中戦では魔力消費が多かった方が負ける。風魔法の応用で空を飛ぶより、箒で飛ぶ方が魔力消費が少ないので、魔高では必須科目となっているのだ。
まずは空中で静止し、指定された高さまで上昇する。
アオは軽々と箒に乗り、そのまま上がった。
他の生徒を待つため箒の上で胡座をかく。
「早いね。昔から乗っていたの?」
「ほんとすごいわね霧山さんって。尊敬する」
次に上がってきたのは植田。
その次が江山だった。
「江山、って言ったっけ」
アオが彼女に聞いた。
「ええ。蜜世って呼んでもらって構わないけど。そうだ、貴族って聞いたけど本当?」
「貴族というか、まあ国務関係ではあるような……」
「霧山さぁーん!! 俺と空中デー」
「うるさい遊太」
「玲!? 箒の上でチョップしないで!? 落ちるぜ俺ぇ!?」
広夜麻と植田が騒いでいるなか、慎重に上がってくるのは千草と有崎。
有崎がバランスを崩しそうになりながら上がってくるのに対し、千草は疲れたふりをしながら上がってくる。
「千草、遅すぎ」
「みんなもう待ちくたびれてるんだけど」
江山と黒滝がそう言い合っているのが耳に入り、アオは顔を歪める。のろのろと上がってくる千草にため息をついた。
──こういうのは気に入らないな。
彼が到着した瞬間、アオが千草に向かって飛行する。
片手を離し、体を振り子のように使う。彼女の足が千草の頭を直撃する、誰もがそう思った。
しかし、彼は咄嗟に箒を横に傾け、空中で回転。それは先程箒に乗るのに苦戦していた彼とは思えない身のこなしだった。
「何すんだてめぇ、危ねえだろうが!!」
「千草、さん……?」
「……っ!」
反射的に叫んだ千草は、有崎の呟きに慌てて口を閉じる。
「何?? その口の利き方……?? あはは、昔を思い出しちゃった感じ?」
「……」
江山に睨まれ俯いた千草。
「さっきの、千草!? やばくね!?」
「さすがにまぐれだよね!?」
「いや、僕でもあんな飛び方は……」
見ていた周囲は騒然とするが、教師のホイッスルが鳴り響いた。飛行訓練終了の合図だ。
それにより千草の件は有耶無耶にされ、アオは一日の全ての授業を終えたのだった。
放課後。
「広すぎる……たかが学校のためにここまで敷地を使うなんて……」
アオは校舎の中で道に迷っていた。
魔法練習室と書かれた部屋の前で止まる。
彼女はその音を聞き逃さなかった。
──水がかかる音?
人の気配を感じたアオは不審に思う。
勢いよくドアを開け、中を見た。
「何、してるの」
そこには知らない女子生徒と江山、黒滝。
濡れた髪が張り付いた顔で、千草が静かに立っていた。
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