14話 素晴らしき雨の日(後編)



「…………何の用だと聞いてるんだ」



 南本の目つきが更に鋭くなった。



「そんなに睨まないでくれる?

 そうだね、目的は、そこの霧山碧を殺すこと」



 燈蘭がアオを指差し、続いて南本を指差した。



「だからおじさんは必要ないの。わかる?」


「……それなら、なぜ俺の部下を殺した??」



 当然の疑問。

 焔は、明るく、笑った。



「邪魔だったからだよ。それ以外ある?」



 その言葉で押し殺した怒りが爆発した。南本は国防軍の中でも古株。失った仲間の数も少なくない。


 そして、新しくできた大切な仲間の数も。



「そうか……邪魔だったか……!!」



 彼は歯を食いしばり目を見開いて涙を流す。



「魔物、ごときが!!!」


「挑発に乗るな、南本!!!」



 アオが叫ぶが、南本には聞こえていない。


 飛び出して行った南本を止めるため彼女が動き出そうとすると、金縛りに遭ったかのように体が固まる。男性の鬼人と目が合ったのだ。


──やられた!! 動きを制限する魔法……!?



「俺の部下を……侮辱するな!! 土魔法【地槍ストンスピア】、風魔法【気砲アエロバロス】!!!」



「……個人魔法、《加速》!!」



──速い。さすが南本だ……だけど。



 南本は自身の足に魔法をかけ、一気に加速。閃光のように駆けていく。それを楽しそうに眺める、鬼人の焔。



「いい、すごくいいよ!!!」


「魔法生成速度だけなら僕たちと並ぶんじゃない!? こんなの久しぶりだなぁー!!!」


「く、そ!!」


 彼は再度その鬼人に向かうが、軽くあしらわれる。幾度か衝突する。

 しかし埋まらない実力の差。少しずつ押されていて、しまいには南本の両腕が、弾け飛んだ。



「ぐあああっ、、!」



「怒りで動きが鈍ってるよ、勿体無い!! そうだ!! 君の名前、何?? 殺す前に覚えておきたくてさ!!! 僕は焔っていうんだ!!」


「また始まった……」


「ちょっと、時間を取らせないでくれる?」



 毎度なのか、もう2体の魔人が不平を言う。煽られたと感じる南本は険しく目を細めて、もう一度攻撃を仕掛けていく。



「誰が、魔人に、教えるか……!」



 彼が踏み出そうとすると、激痛。

 突然前方に倒れ込んだのだ。



「ほらほら死んじゃうよ!? 早く名前言ってよ」



 上の方から無邪気な声が聞こえる。

 足の感覚がない。いや、そうじゃない。




 恐怖が彼を襲う。ゆっくりと視線を向けると、




 彼の片足はなくなっていた。




「南本!!!」



 アオが声を張り上げる。南本が霞んだ目で見上げると、その真上に焔の足があった。


 焔は、切り離された南本の片足を手に持ち、

 勝利を確信して口角を上げた。




「南本って言うんだぁ……!! よろしくね!!」



「ッ、南本……!!! 早く、逃げろ!!」



 アオの絶叫に等しい叫びも虚しく。



「じゃ、ばいばい!!!」



 足が振り下ろされた。

 速度が遅くなり、南本の脳内に走馬灯が走る。



(俺は、まだ……!!)

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