13話 僕の切り札(後編)
「やあ、こんなところまで飛ばしてくれて感謝するよ」
大きな魔獣に突き飛ばされたその男───那原は少し開けた公園で、魔獣に囲まれていた。
「だから、僕は戦闘員じゃないってのに……」
小さくぼやくが、すぐに口角を上げる。
「さぁて、鬼ごっこ開始だね〜!!」
彼は後ろにあった遊具の柵に跳躍すると、そのままブランコに飛び移った。片手で鎖の部分を掴み、地面と並行になるほど大きく揺らす。
「こっちだよ〜」
追いかけてきたところを那原の乗ったブランコがスイングして魔獣の頭に直撃する。
「僕から攻撃しないとは言ってないよ?」
彼はカラカラと楽しそうに笑っていた。
魔獣が蘇る瞬間に蹴込みを入れ、襲いかかった魔獣を背負い投げる。滑り台に登ると、階段側から登ってくる魔獣を払い落とし、滑り台から駆け上がる魔獣をぶん投げた。
計算し尽くされたように大量の魔獣達の攻撃を捌いていった。
蘇った魔獣の攻撃を流し、木に登って躱しながら、最も大きい魔獣へと走る。
「やっと補充完了っと……」
その手のひらには凝縮された魔力が見える。
大きい魔獣と相対するが、正面からは突破せずに攻撃を避け──、ぽん、と魔獣に手を当てた。
「汝の全てを無に還せ……【無効化】」
那原が静かに詠唱すると、魔獣は眠りに落ちるように地に伏せる。同時に全ての分身が消滅した。
那原田貫の個人魔法、無効化である。
触れた対象の魔法や存在を無効化できる万能性の高く、とても希少な魔法。
しかし、効果は使用者の魔力量に比例する。
「狙い通り遠くまで飛ばしてくれてよかった。
この魔法はあまり人に知られたくないし……」
「個人魔法のことか?」
「そう、僕の個人魔法、って、うわっ!??」
驚いて後ろを振り返る那原。
「……南本さん、いたなら気配隠さないで……?」
「すまん。しかし、那原も相当強いな。試験で碧と協力したというのも頷ける」
「そのことなんですけど、これ、秘密にしてくれませんかね?一応切り札みたいなもので、魔力量が少ないせいで十分に使いこなせないんですよ」
「しかし無効化なんて強すぎる魔法、軍の役にも立つんじゃないか?」
「期待してもらっちゃ困りますよ〜。
僕はさっきの魔獣を倒すのが精一杯ですから」
「そうか……なら秘密にしよう」
「感謝しま」
「那原っ!!!! ………って、何この状況」
走ってきたらしいアオが、魔獣の本体が討伐されているのを見て混乱する。
「気づいたら魔獣が消えちゃったんだけど、なにか知ってる?? もしかして、那原が本体を倒したの?」
「ははっ、やっぱり碧も気づいてたかぁ。もちろん僕じゃないよ。南本さんが助けてくれたのさ」
那原はしれっと嘘を吐く。
「いや、俺は何もしていないが、田貫は個人魔法を隠しておきたいそうでな」
「………え」
「……南本……」
何かしらを察したアオが呆れたような視線を南本に向けてから、軽く空気を入れ替えた。
「とにかく、2人とも無事で何より」
「ああ。普段はあんな高度な魔法を使う魔獣は現れないんだが……初任務、ご苦労だったな。
今日はよく休め」
残った魔獣は回収班に任せ、報告を終えてからアオは部屋に戻ったのだった。
「国防軍に入ったぁ!? そんなことある!?」
薄暗いレストランの中で1人の少年が怪訝な表情で聞き返す。
「事実らしいよ、フォラウスが掴んだ情報らしい。あと
そう言った女性は、チキンにナイフを乱暴に刺した。ため息をつく、もう1人の別の男。
「やめなよ、
しっかし、フォラウスか。あいつ直接会って勧誘してきたんだろ?? あんな酔狂野郎に先越されるなんて俺たちはほんとに運が悪いよな」
「全くだよ。
そうだ、新魔王軍なんてぶっ潰そう!! 旧魔王様の望みは1つだけなんだしさ。あんなのなくても俺たちで足りるよ!」
満面の笑みで立ち上がり手を広げた、少年、焔。彼の隠されていた魔力が凝縮され一気に爆発。
その瞬間、店内は黒い炎に包まれた。
そう、店内にいたその3人以外が鏖殺される。
ある者は内臓を抉られ、ある者は皮膚が爛れ肉が溶けて、骨が見える。
窓ガラスが割れて、壁にヒビが入った。
一瞬で廃墟となったそのレストランには、大勢の凄惨な焼死体が残る。
「やりすぎ……足がつくでしょ。
まあ、確かに邪魔な芽は摘んでおかないとね」
女性──、燈蘭は微笑を浮かべる。
「とりま方針は決まったな。
まず最初に殺すのは──」
「「「霧山碧」」」
割れた窓から月灯が差し、3人を照らす。燃えさかる陽炎が怪しげに揺れ彼らの顔が顕になる。
彼らはいずれも、
赤黒い瞳と、鋭い角を持っていた。
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