13話 僕の切り札(前編)
街に出て、インカムで支持を受ける。
人々に聞き込みをして魔物を探し出し、速やかに討伐する。それが今回の目標だ。
アオは近くにいた2人の子供に話しかけてみる。
「魔物が出たって通報があったんだけど何か知らない?」
「ま、魔物!?」
「ぅ、ああああああああ!!!」
子供が突然泣き出し混乱するアオ。
彼女を押し退け那原が屈んで聞いた。
「ご、ごめんね〜、冗談だよ〜。お兄さん達は国防軍の隊員なんだけど、この辺りで何か変わったことはなかったかな?」
那原が笑顔で聞くとその子供が泣き止む。
何も言わずに退けられたアオは不服そうに頬を膨らませている。
「ちょっと。何で押すの」
「魔物がいるなんて言ったら怖がらせちゃうでしょ。子供には目を合わせて優しく──」
「うあああああああん!!!!」
「「なんで!?」」
「あんたが胡散臭いからだよ、じじい!!
魔物がいるなんて脅かせやがって。弟が怖がっちゃったじゃねーか!!」
那原は逃げていく子供達を遠目で見ながら、口角をひくつかせる。
「じじいって……」
「次、行こっか」
「む」
「そうしよう」
「おばあちゃん、この辺りで変わったことはなかった?」
「知らん!! わしに聞くな!!」
「この辺りで魔物っぽいのを……」
「はぁ!? 魔物!?」
「失礼するが、この辺りで変わったことはあったか?」
「ひぃっ……」
「南本は体が大きいから無理だと思う」
「……そうか」
「すみませ」
「ヴゥゥゥ、、ワンッ、ワンッ!!!」
行き詰まった彼らは近くのカフェに座り、注文をする。呑気にソフトクリームを食べ紅茶を啜るアオをちらりと見てドリンクを一口飲んでから那原が口を開いた。
「アオ。もしかしなくてもさ…このメンツ、死ぬほど聞き込みに向いてない……?」
「うん、私も思った」
「そうなのか?」
その後も聞き込みは困難を極めた。
「ここを左」
結局、昼過ぎになっても聞き込みが進まなかったので、魔法の使用許可が降りた。
現在はアオが魔力探知で案内をしている。
「こんなに聞き回ったのに近くにいるなんて、ほんとに勘弁してほしい……」
「右」
「基礎体力を増やす訓練になったな」
「つぎ左」
「いや僕は戦闘員じゃないです〜……」
南本と那原がそんな話をしていると、アオが立ち止まり、前を見据えた。行き止まりだ。
そこには魔獣の巣があるのか、30体以上の魔獣がこちらに気づいて睨む。
「碧。報告を」
「はいはい……ええっと……あった」
肩にかけたショルダーバッグからゴソゴソと通信機を探して、咳払いをした。
「第零部隊、戦闘班の霧山碧。神奈川県A2地区の路地裏で約三十体の魔獣を発見したから、えー、討伐します?」
「普通は援護を求めるんじゃないかな……?」
「碧。階級を伝え忘れているぞ」
「あぁ、そうだった。たぶん二級ぐらいです。
あ、うん。援軍はいらない。うん。おっけ。
じゃあ切るね」
「電話かっ」
アオが通信を切ると同時に那原がツッコむ。
2人が魔獣と向き合うと一歩後ろに退がった南本が言う。
「俺は引率だからな。できるだけ手出しはしないぞ」
「わかってる。で、どうする?? 那原」
「えーっ、僕?? うーん……普通にぱぱっと倒した方がいいかもね。碧は適当に討伐して。僕は残ったのを片付けておくから」
「りょーかい」
アオは流れるように魔法を繰り出し、着々と討伐していく。その時、轟音がした。
視界の端で那原が大きい魔獣に飛ばされていくのが見える。
「那原!!??」
那原を助けようとアオが踏み出すと、
「碧!! 心配ない!! そっちは任せたよ〜」
本当に心配はないようで、彼は笑顔で叫んだ。
「………わかった。死なないでね」
「はいは〜い」
彼の軽さに苛つきながらも、目の前の敵に集中する。一向に数が減らない。
そう気がついて周囲を見渡すと──、
「うっわ、面倒くさそう……」
倒したはずの魔獣がゆらりと蘇ったのだ。
「分身魔法……か」
屋根の上に跳躍し、待機している南本が眉間に皺を寄せて呟いていた。
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