12話 クリスマスぱーりー(前編)
市川は朝から目が死んでいた。その足取りは罪人のように重い。そして決して後ろを振り向かないと決めていた。
なぜなら──、
「ねぇ、市川。歓迎パーティーって何するの?サンタクロースって本当にいるの?? 神の使い?? 結局神ってどんな存在?」
アオの好奇心の嵐はまだ治っていなかった。
彼は坂に彼女を丸投げされて今に至る。
「そのままの意味です。新入隊員を紹介して、隊長格や上司との交流の機会を作るのが今回の目的、なのですがそれは騒ぐための口実のようなものですね。
実際はただの宴会ですから、アオさんは単純に楽しんでいれば良いかと」
「なるほど、神の宴会か」
「もうその認識で構いませんよ……。
そういえば、アオさんは表向きには第一部隊ということになるそうですね。よほど伊津隊長に気に入られたのでしょう」
「それ聞いてないけど」
「今回はアオさんのせいでは」
後から聞いた話にだが、市川の言う通り、質問をし続けるアオに疲弊した坂が彼女を市川に丸投げしていたので、伝え忘れていたらしいとのだった。
「改めて!! 新しく入隊した10名のスターを歓迎しよう!!」
司会役を任されたらしい伊津が声を張る。
「まず第一部隊が2名!! 仲居友久、霧山碧!!」
アオは、伊津のいる壇上に上がる。隊員の視線が彼女の髪に集中する。その白髪は黒髪が多い日本人の中で特に目立つからだ。
だがそれを気にする風もなく、面倒くさそうに欠伸をした。第四部隊が呼ばれた際に、那原がアオに向かって笑いかけ、壇上に上がる。
──あの男には緊張感はないのか……ないな。
欠伸をした自分の事を棚に上げてそう考えると軽く視線を送り返し、再び正面へ向き直った。
新入隊員全員の紹介が終わるとすぐに宴会が始まる。活気盛んな人物が集まる国防軍だからなのか、パーティーでの喧騒も凄まじい。
「合格すると思ってたぞー、少女。いや、碧だっけ??」
アオに話しかけたのは伊津だ。司会を行なっている間も、彼女の方をチラチラと見ていたので、早く声をかけたいのは一目瞭然だったのだが。
会話をしなければならないのを察したアオが軽く笑いかける。
「伊津隊ちょー、だっけ。私、表向きには第一部隊になったらしいし。まぁ色々、よろしくね??」
「よろしく。せっかくの宴会だ。他の部隊長にも挨拶に行くといい」
「わかった。行ってくる」
「それと……!!! あ、あのさ」
その場を去ろうとすると、伊津が引き留めた。彼女は遠慮がちに切り出してくる。
「メリークリスマスと、合格祝い……」
伊津が渡したのはネックレス。銀色に輝き、アオの白髪とよく似合っている。
「アタシの第一部隊では、隊長が一人前と認めた隊員にアクセサリーを渡す習わしがあるんだ。これを着けていれば、国防軍の隊員全員、文句は言わないだろうから……良かったら、もらってくれないか」
「わかった……大事にするよ」
アオは控えめに、しかし嬉しそうにそれを受け取り、首に身につけた。
隊長達に挨拶に行くとは言ったが、彼女は宴会に興味がない。わざわざ参加する必要性を感じない。部屋に帰ろう、と体を返すと、肩を掴んだ者がいた。
「おいてめえ、隊長格に挨拶もなしに帰るたァ、良い度胸じゃねえか」
アオは怠さを隠しもせずに振り返ると、2人の見覚えのある男達がいた。話しかけたのは刺々しい髪の小柄な目付きの悪い方で、アオを睨みつけている。
「何?? そんなルールでもあるの?」
「は?? てめえが坂と伊津に気に入られて調子に乗ってるのかもしれねえけどな、俺は仲良くするつもりはないぜ」
「じゃあ放っておいてくれない?? わざわざ引き留めたりしてさ」
「この、クソガキャ……!!?」
威嚇をして噛み付く子犬のようだ。吠えるその男を抑えたもう1人の男が諭すように話しかける。
「暴れるな。ただ挨拶に来たんだ、喧嘩しに来たんじゃない」
眼鏡の男が宥めると、不機嫌そうにしながらも怒気が和らいでいた
「僕は第四部隊隊長の、
「俺は第二部隊隊長の
「……あっ、第四部隊って那原が入隊したところじゃん。那原が世話になるよ、よろしくね、時薪」
「てめえ隊長を付けろ、隊長を」
「那原か。そういえば知り合いだったな。
……壊れない程度にこき使ってやるか」
くくく、と暗い笑みを浮かべる時薪。
見た目に反してなかなか腹黒そうな男である。
「鬼畜か」
アオがツッコむと同時に、時薪は元の無表情に戻ると、彼女に言う。
「一応、
「知るかよ。また研究室じゃねえの?? ……行くなら扉の前には立つなよ、たまに吹っ飛んでくる」
──なにが?
「まあ意味のわからん研究ばかりしているが、研究の邪魔だけはするな……忠告したぞ」
「わかった、気をつけるよ」
市川に案内を頼み、研究室へ辿り着く。
「お邪魔しまーす」
「碧さん、今はちょっ」
市川の静止も聞かずにドアを開けようとすると、爆発音とともにアオは吹き飛ばされた。
空気が振動し、視界が一瞬揺れる。
「大丈夫で……いえ、大丈夫ですよね。ここから離れましょう。いま漆原隊長に見つかると面倒……」
市川がアオに手を差し伸べてそう言って、途中で言葉を切る。背後に気配を感じたのだ。
「誰に見つかると、めんどーだって?」
白衣を着た男。背は市川よりは低いが、それでも高身長。薄紫の短髪で前髪は少し目にかかっている。
彼はポケットに両手をつっこみ、首を傾げて可笑しそうに口角を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます