11話 晴れて入隊(後編)
「なぜ入隊を許可する? 副隊長殿」
時間は遡り、諸橋と東江が話し合い、諸橋が碧を合格と判断した頃だった。怪訝な表情で東江が目を細めている。
「せやから、何度も言うてるやないですか。
あの子はああ見えて意外と仲間想いだし、良い子で、自分の芯はしっかり持っとるような気がするんです。それがどんなバケモンだとしても……。さっきのは客観的で保守的なお前らの意見を言うてやろと思っただけや……」
わざとらしく失言したように口元を抑えた。
「おぉっと、すんません。軍長殿を貶したわけやないですよ?? 私個人の意見として、一隊員、一試験官の意見としちゃあ、霧山碧は入隊させるべきだと思います」
「……だが部隊の戦力のバランスが」
「どうでもええやないですか、そんなもん。我々は国防軍っちゅう1つの組織なんやし。内輪揉めなんか犬も食わへんですわ」
「貴様……まあ良い。どこに入れるつもりだ?」
その質問に、諸橋は楽しそうに笑う。
「あんなのを抑えられるのなんか、第零部隊ぐらいに決まっとるでしょうに」
「広い!! 綺麗!! 頑丈!!
……防御結界でも張ってあるの?」
「コラ、壁を叩くんやないで」
用意された新しい部屋にはしゃいでいるアオに注意するのは、もちろん鬼谷である。ベッドに数十秒手足を放り投げてから、ぱっと彼を振り向いたアオ。
「にしても久しぶりだね、鬼谷。元気?」
「ここまで俺が案内したのに今更なん!? いやね、めっちゃくちゃ忙しかってん。話聞いて?」
「や、また今度で」
「連れないなぁ……あと鬼谷、総隊長、な?」
「部屋まで送ってくれてありがと、鬼谷、坂」
「無視!?」
ショックを受ける鬼谷だが慣れたように坂が話す。
「仕方ないです、鬼谷さん。僕も時々無視されるので……」
「坂くんまで!? そりゃ俺がでしゃばれないはずやん……ところで、碧ちゃん」
「ん?」
以前よりも大きくなったベッドに寝転がっていたアオが面倒くさそうに反応する。
「明日、新入隊員歓迎パーティーがあるんやけど、来ぇへんか?」
「なんで?」
「そりゃ、クリスマス、だからさ」
「くりす……?」
記憶喪失のアオは、魔導書を読み込んだおかげで魔法の知識はほぼ頭に入っている。
しかし、日本の行事についての知識はいまだ無に等しいのだった。単語がわからないのか首を傾げている。
「クリスマスっていうのは簡単に言えば世界中を巻き込んだお祭りみたいなもんや!!」
「そ、そんなに壮大な話……!?」
「鬼谷さんは誇張しすぎだけれどね。神の子が生まれた日をお祝いした日を、お祝いするんだ」
坂が鬼谷を補足する。さらに疑問を増したアオは2人に詰め寄っていく。
「お祝いした日をさらに祝うの?
それじゃ毎年増えていくんじゃない?」
アオはクリスマスについて知りたがった。鬼谷は仕事があると言って部屋から出たので、坂は質問攻めを受けることとになってしまう。
「神って何?」
「世界を作った全知全能の──」
「サンタクロースって?」
「プレゼントを子供達に配る──」
「プレゼント?? 何それ」
小一時間続いた。
さすがに疲弊した坂が額に手を当てながら制す。
「さ、さて、今日は疲れたでしょ。
部屋でゆっくり休んでくれ……頼むから」
「はぁ?」
心底不満そうな表情を顔に出し、放つその一言。
「まだ聞きたいことがあるんだけど」
坂の地獄はまだまだ終わりそうになかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます