9話 魔獣との戦い(後編)


「霧山さん!!!? その…肩……!!!」



 魔獣が爪を抜くと、赤黒い血が噴水のように噴き出して、アオがよろめく。



「これぐらい、大丈夫だから……」


「撤退して、体勢を立て直そう!!

もう一度やり直せばっ」



「それはできない」



 那原が声を張り上げるが、天陵に回復魔法をかけられているアオが即座に遮る。



「落ち着いて考えなよ、那原……。

君、頭脳戦の方が得意なんでしょ?」


「……試験の制限時間か…!!! 残り、15分もない……!!!」


「そう……私が合図をしたら兼得と、30秒稼いで。一撃で決めてあげる」



「よし、そうしよう」


「「だから決めるの早いんだよ」」


「少しは人の意見も聞けよ、春人」


「まぁ、時間が迫ってるし、やるしかなさそうだね。碧なら出来そうだ。凪、僕たちは全然戦力にならないから、それ以外なら思いっきり頼ってよ」


「はい!!」



「準備はいい? ………攻撃、開始!!」



 佐々木が【空間固定】を応用し空中に階段を作った。兼得は魔獣の額まで跳躍し、ナイフを構える。



「だあ"ぁぁあああ!!」



 雄叫びをあげて着地すると、そのままナイフを額を突き刺した。ナイフが骨を砕き、血しぶきが宙に舞う。魔獣の、空気が揺れるような絶叫。



「こっちだノロマ!!」



 天陵が魔法を撃ちながら魔獣に叫び、兼得から気を逸らさせ、時間を稼ぐ。

 アオに視線を送ると、彼女の手元に、空気中の魔力が勢いよく集まっているのが感じられた。



「さすがの魔力操作だな……」


「あれは時間を稼ぐ意味があるねぇー。さ、あと5秒、気を引き締めるよ!!」



「もう、一回……!!」



 兼得が駆け出す。


 魔獣の攻撃はシールドで防ぎながら、今度はナイフを額に目がけて投げた。



 一直線に投げられたそれは、直撃し、一層大きく轟く魔獣の呻き声。



「3」



 天陵と佐々木が勝利を確信して。



「2」



 那原はアオの力に苦笑して。



「いちっ!!!!」



 兼得が叫ぶ。



「雷魔法【天槍ライトスピア】」



 アオが呟いたと同時に、手のひらを魔獣に向けた。禍々しく凝縮された魔力は激しい光を放ち、大きな槍の形へと変化する。


 光が辺りを青白く染め上げた。槍の形を取った魔法は、細かい電流を四方に放ちながら空気を焦がしていく。それが放たれる瞬間、地面が大きく揺れ、視界は眩い閃光に包まれた。


 まさしく神速で魔獣の額に接触し、爆発音とともに魔獣を内部から塵さえ残さず破壊する。




 [鍵の試練にて魔獣:ケルベロスの死滅を確認。32班、0844那原、0860天陵、0861佐々木、加えて、44班、1001霧山、0976兼得。

以上に、鍵の使用権を認証]




 消滅したと同時にそのアナウンスが流れた。


 兼得はアオの魔法の威力に、呆然とする。

 感動し憧れ、自然と涙を流す。


 爆発の余韻が収まり、静寂が訪れる中、その光景が脳裏に焼き付いて離れない。



 真っ先に状況を理解した那原が、

 満面の笑みを浮かべる。



「やったあああ…!! やったよ、みんな!!

 試練を突破した!! 魔獣に勝ったのさ!!」


「名前、ケルベロスなんだ……頭は1つしかないのに………紛らわし……」


「僕は、出来ると信じていた」


「泣いてんじゃねーか天陵!!

 まだ一次試験だ!!」


 そう言う佐々木も勝利を喜んでいる。

 兼得も笑顔になる。


「ま、まだ、鍵を手に入れた、だけですが……良かった…!! ひとまず安心ですね…!!!」



「「「……………」」」



 いくら待っても何も起こらず棒立ちする一同。しばらく経ち、アオがため息混じりに呟いた。



「………で、ダンジョンからは自力で出ろと」


「時間も残り少ないのに……」


「うわぁ……性格悪っ」


「……うん、仕方ない、地上に急ごう!!

 出口はダンジョンを出て北側にまっすぐだ。

 もちろん、碧も凪も一緒に行くよな?」


 佐々木が明るく問うと、アオも気を取り直すように頷く。


「2人じゃ出られないからね。もう少し同行させてもらう。その代わり身の安全は保証するよ」







 出口と書かれた標識のあるその扉の前に到着し、鍵穴に鍵を差し込む。




 [鍵の挿入を確認。

 32班、0844那原、0860天陵、0861佐々木

 44班、1001霧山、0976兼得。

 実技一次試験、突破]


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る