第19話
部屋のテレビは、最新型の大画面のテレビだった。
慣れた手つきで幽子部長が操作すると、あっという間にスマホの画面とテレビの大画面がリンクしていく。
「廃墟探索かー。幽子も雄一郎くんもいないと思ってたらデートだったんだ。羨ましい」
「ふふ、あぁ楽しかったぞ」
「…………」
からかうような夏菜子先輩の口調、おどけきった幽子部長の言葉。和やかに笑い合っている2人とは対象的に、据わった目を浮かべながらげしげしと俺を蹴りつける日向。足グセが悪い。
「なに勝手に面白そうなことしているのよ」
「蹴ることないだろ、幽子部長に付き合わされただけだよ」
床に散乱していたカードゲームやトランプの類が片付けられ、飲み物と買い込まれていたお菓子が並べられて、鑑賞会の準備が整っていく。
ノリノリな様子の幽子部長と裏腹に、釈然としない思いが俺にはある。
夢と現実の不思議な重なり。
サクライヒナコの怪異に無理矢理に揃えるのなら、 学校の怪談その3、ユメという案内人が昔の記憶を見せる。これを見せられている。
部室で昔の女子校時代の生徒達の光景も、もしかしたら一番最初の悪夢についても。
幽子部長もあの怪異を追っていく最中で、スクラップ帳の最初の事件現場と夢の廃墟とが同じ場所であることに感づいた。けれど実際にはあの場所で殺人事件は起こっておらず、ましてや転落事件や生き埋めにされたなんて凄惨な事件は起きていない。
まるで本当の出来事のような夢だから、現実のように感じてしまっているけれど。夢は、夢でしか無い。
何も起きなかった廃墟の光景をわざわざ見返す必要なんてあるのだろうか。
「余興だよ、雄一郎」
俺の考えをまるで読み取っているかのように、幽子部長が言った。
「確かに、こんなものを見たところで何も変わりはしないだろう。不思議なことが起こってはいるが、それをどうしても追いかけなくてはならない理由もない。だから、余興だ」
あとは再生ボタンを押すだけ、という段になって幽子部長が俺の隣に座りながら言う。
「そして好奇心だ。私達に降り掛かっている不可解な出来事を、私達の知りたい、という欲だけで探っていく。これ以上に純粋で強欲な娯楽はないだろう」
「……なにやら格好良いこと言ってますが、単に愉快な事がしたいだけですよね」
「あぁそのとおりだ」
最後ににこやかに幽子部長が言って、夏菜子先輩が部屋の電気を落とした後。
俺達が撮影した廃墟の映像が画面に映し出された。
昔、誰かが「映像を見ることは夢を見ることに似ている」と言っていたことを、ぼんやりとした頭が思う。
決して存在しない虚構なのに、意識には鮮明に残る。
確かに夢と映像はある意味において良く似ている。
つい先程の出来事だというのに、幽子部長が撮影していた映像は幽子部長の視点から撮られたもので。自分の記憶と同じでありながらほんの少しずつ異なる。
ここには匂いも質感も無いのに、記憶が補完をしてくれて。過去の記録の筈なのに、俺達をあの廃墟に誘っていく。
「あ、なんかここ見覚えある」
「ほんとに最初の記憶の場所ね」
廃墟までの道すがら、夏菜子先輩と日向の声がする。
仔細は話し合っていなかったが、本当に彼女たちの記憶の中にもある光景だったらしい。
「あはは、雄一郎真面目じゃん」
「……幽子、これ犯罪の証拠だから他に絶対見せちゃダメだよ」
廃墟の前までやってきて、乗り込むべきか辞めるべきか、俺と幽子部長の音声までばっちりと録音されている。
映像になることで鮮明になる自分の声に気恥ずかしいと共に、幽子部長が振り返る度に自分が映し出されて、明らかに動揺している様が顕わになっている。
本当に恥ずかしい。
「雄一郎、ビビり倒しているじゃん」
本当に恥ずかしい。
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