⑥:わたあめみたいだね



「…!」


そ、それってつまり、俺の為に用意した浴衣ってこと…!?


私が話している隣で北瀬くんが内心そう思っているが、もちろんそういうわけではない。


一方の私は私で「高校生にもなって浴衣をお母さんに選んで買ってきてもらうなんて子供みたいかな…」なんて思っては、つい恥ずかしくなってうつ向いてしまう。

き、北瀬くんは浴衣とか着たりしないのかな。

そう思ったらふいにまた疑問が浮かんできて、私は口を開いた。


「…あ」


しかし開いた瞬間、それに気が付いていない北瀬くんが立ち上がって言った。


「っ、俺何か買ってくるよ!竹原さん何食べたい?」

「…え、えっと…」


そんな北瀬くんの言葉に戸惑いつつ、私はやがて「…から揚げ」と呟いた。



…………



…食べたいものが「から揚げ」なんて、あまり女子っぽくなかっただろうか。

北瀬くんが「OK」と言ってその場を去った後、今更ながらに気が付いた。


それならまだ「たこ焼き」の方が良かったかな。

そう思って考え込んでいると、やがてから揚げとチーズドック、わたあめを抱えた北瀬くんが戻ってくる。


「お待たせ!」

「!」


思ってよりも戻ってくるのが早いのと量が多いのとで驚いたら、北瀬くんが「クラスの女子にそこで出会って貰った」と言われた。

…ラッキーだけど、本当に人気者だなぁ北瀬くんは。ていうか私まで貰っちゃっていいの?

から揚げは買ったばかりなのか、まだあたたかい。


「嬉しいけど、2人で食べきれるかな?あ、竹原さんわたあめ好き?」

「好きだけど、北瀬くんが貰ったんだから北瀬くんが食べなよ」

「そんなこと気にしなくていいのに。2人でわけて食べようよ」


北瀬くんはそう言うと、「本当にラッキーだったね」とわたあめを一口分ちぎって口に含む。

私はからあげを食べているのをいったん中断して、北瀬くんよりも一回り小さいサイズをちぎって口に含んだ。


…わたあめなんてどれくらいぶりだろう。

懐かしい味。

甘くてふわふわで、美味しい。


「こんなに貰えるなんて、北瀬くんは相変わらず人気者だね」

「そんなことは。たぶんみんな、買ったけどお腹いっぱいになっちゃったから俺に押し付けたんだよ」


北瀬くんはそう言うけど、私にはそうは思えない。

明らかに買ってまだ間もないから揚げに、わたあめ。

自分で食べるつもりだったけど、北瀬くんに会ったから渡したんだろう。

…下心すらありそう。


そんなことを思っていたら、不意に何気なく北瀬くんが言った。


「竹原さんって…わたあめに似てるよね」







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