普通の生活を望む異能者の僕はクラスメイトの金髪碧眼巨乳美少女を助け出して普通の生活ができなくなりそうです
フィステリアタナカ
第1話 目立たないこと
異能。それは普通の人と違った能力を指す言葉だ。小学校低学年の時に僕は異能だと知らずに面白くて能力を周囲に見せた結果、周りから気味悪がられる存在になってしまう。そのことで心無い言葉を浴びせられることが多くなり、爺ちゃんの助言で小学三年生の時に転校することになった。それからは出来るだけ目立たないように生きることばかりを考え、残りの小学校生活と中学時代は空気の様な存在になることを心掛けた。他人から見れば羨ましく思われる能力かもしれないが、爺ちゃんの「好きな家族を守るために使うんだよ」といった趣旨以外には能力を使うことなどさらさら無かった。
「よう、
「おはよう、
「今日の放課後は負けねぇからな――って反応薄いなぁ」
「いつも通りだよ」
昼休み、僕に声をかけて来たのはクラスメイトで同じ将棋同好会の
「しっかしまあ、ナンちゃん可愛いよなぁ」
翔也がナンちゃんと呼んだクラスメイトの女子の名前は
「何でナンちゃん、彼氏作らないんだろ?」
「別にいいんじゃない? 人のこと気にしても仕方ないでしょ」
「お前、将棋以外のこと無関心だよな。そんなんじゃ結婚できないぞ」
「いいでしょ。僕のこと気にしなくてもいいよ」
「まっ、輝らしくていいか――おい、どこへ行くんだよ?」
「トイレ。お腹が痛いから」
僕がトイレへ向かおうとすると翔也が笑顔で僕のことを見ていた。その笑顔を見て彼と友達になれたのは良かったのかもしれない、そう自然と思えた。
◇
「うー、出ない」
昼休み予鈴前、男子トイレの個室で唸っていると、外から不穏な会話が聞こえてきた。僕は注意深く耳を傾ける。
『おい、これ見ろよ――今日の夜九時からナンパしたやつとエッチする配信があるみたいだぜ』
『お前そんなのどこで見つけて来たんだよ』
『違う高校のヤツが教えてくれた。そいつこれに関わっているんだよ』
『はぁ? 大丈夫なんか、そいつと絡んで』
『大丈夫、心配すんなって』
(そんなことするヤツ、高校生にいるんだな。しかしまあ、配信されるとは、ナンパされた人かわいそうだな)
キーンコーンカーンコーン
(やばい、時間が無い)
時間が迫る中、何とか授業前にスッキリすることができて、教室の中で僕は安堵のため息をついた。午後の授業もいつもと同じように進み、あっという間に放課後になる。
(誰も教室掃除やらねぇ)
帰りのホームルームが終わり、僕は一人教室の中を掃除する。机を動かす大変な作業も床を掃くことも、ちょっとだけ能力を使って効率よく掃除をした。それでも時間はかかるわけで、翔也を待たせてしまうことには変わらない。ゴミ箱に入っている袋を取り出し結んだ後、僕はゴミ置き場へと急いだ。
「よいしょっと」
『ねぇ、南野さん連れて行かれたみたいだよ』
『ひょっとして昨日、正門の前にいた人?』
『うん、何か車の中に入るのをサッカー部の人が見たんだって』
『そうなんだ。南野さん大丈夫なのかなぁ?』
(車の中ねぇ。気になるな)
僕は昼休みトイレの個室で聞いたことをどうしても思い出してしまう。もし、ナンパされた人物が彼女だとしたら――、僕は彼女の暗い表情を思い浮かべ、何とかしたいと強く思った。
(爺ちゃん。こういう時に使ってもいいんだよね? たぶん爺ちゃん使えって言うはず)
僕はゴミ袋を指定の場所に置いた後、教室へ戻ることなく、急いで学校の正門へ向かった。
(何か手掛かりになるものは無いか――ん? このタバコ)
正門より少し離れた場所にタバコの吸い殻が落ちていた。僕はそのタバコを拾い上げ意識を集中させる。
(これは――工場の中っぽいな)
タバコには思念が残っていて、それを捕まえ映像化する。どうやらこの工場がカギになるかもしれない。スマホを取り出して、その工場がどこにあるか調べた。杞憂であればいいけど、っていうか杞憂であって欲しい。無駄な行動になるかもしれないが、僕は居ても立っても居られなかった。
(遠いなぁ、この場所)
地図に名前も記されてない工場らしきものがあって、別の地図を見ると工場画像があった。たぶんここだ。僕は急いでその場所へ向かう。南野さん、無事であってくれ。
◇◆◇◆
「ちゃんと縛ったか?」
「縛ったぞ。服脱がさなくてよかったのか?」
「バカ。配信の時に脱がすんだよ。それまでそのまま」
「コンビニ行ってくるけど、弁当必要なヤツ!」
あたしは今、訳の分からない場所で後ろ手で縛られている。今日の放課後、正門を出ると怖そうなお兄さん達があたしのことを待っていて、手には太い金属製のパイプの様なものがあった。「一緒にドライブに行こう」と彼らはあたしを誘い、断ったらこれで殴るからなと無言の圧力をかけてきた。あたしはそれで殴られるのが怖くなり、彼らの言った通りに彼らが乗ってきた車に乗り込んだ。あたしは後部座席の中央に座り、両脇に座られ完全に逃げられない。知らない場所につくと工場らしき建物の中に入り、そこであたしは縛られる。これからこの人達が何をするのかなんて、容易に想像できて、あたしは震えが止まらなかった。
「お前、よくこんな美人見つけたな」
「ダチと同じ高校なんですよ。昨日、見に行ってみたらすげぇ美人だったんで」
「よくやった。夜が楽しみだな」
あたしはそんな会話を聴きつつ、周りを見る。カメラスタンド的なものが複数あって、配信という言葉も聞いて、自分の置かれている状況を理解した。こんなのイヤだ。あたしの視界は涙でぼやけた。
◇◆◇◆
「うーん、ここだよな」
日没後、時刻は八時。僕は例の工場を見つけた。明かりが
(ビンゴだったか……)
心配していたことが現実になりそうで、僕はとても悲しい気持ちになった。それと同時に怒りが溢れ「あいつらタダじゃすまさない」と、僕はすぐさま時間を止める能力を発動させる。
(参ったなぁ。これじゃ、南野さんを運べないや)
座っている南野さんに近づき、彼女の後ろに回る。一度、時間停止を解除し、彼女を持ち上げ立たせ、また時間を止めた。ただ立ったままの彼女のこの体勢だと僕の力じゃ運べない。彼女の縛っていた紐を解き、僕は悩む。
(どうしよう。とりあえず制裁するか)
僕は弁当を食べている四人をそれぞれ蹴り倒して、どうするか考えた。周りを見ると灯油を入れる容器を発見し、その近くにガソリンを入れる金属製の容器も見つける。僕はガソリンの方を取りに行き、蓋を開け、倒れている四人の下半身に中身をかけた。まあ、下半身が濡れて不快な気分になるだろう。彼らがやらかしてくれれば有り難いんだけどな。
(ん?)
僕は南野さんのカバンを探していると、彼らの荷物のビニール袋の中に黒いものを発見する。取り出してみると覆面だ。あー、これは使えると思い、僕はその一つを手に取り頭に
「乗って」
「えっ」
「南野さん、僕の背中に乗って」
「えっ、何?」
「いいから、僕の背中に乗って!」
『何だこれ?』
『灯油臭ぇ』
『最悪。何が起きたんだよ』
男達の声が聞こえてくる中、南野さんは僕の背中に乗る。彼女を背負う姿勢と彼女のカバンを持ったことを確認した後、時間を止め、僕は工場の外へと歩き出した。
(スーパー柔らかいんだけど)
僕の背中に彼女の双丘が当たり、何か気恥ずかしくなる。歩きながら彼女をいったいどこへ運んだらいいのか考えた結果、時間停止を解除し、彼女に家の場所を訊くことにした。
「どこに住んでいるか教えて」
「えっ」
「いいから教えて」
「あなた誰ですか?」
「誰でもいいでしょ? 家の近くまで送るから教えて」
正直、教えてもらえない可能性も考えていた。けれども南野さんは住んでいる方面を教えてくれて、僕はどこか安心する。僕はまた時間を止め、南野さんを背負ったまま、彼女が教えてくれた方へと向かった。
◇◆◇◆
「なんだよ! あの女どこ行った?」
「気持ち悪い、何だよこれ」
「イライラする。そこのタバコ取って」
「あいよ」
「お前、灯油臭いから危ないだろ」
「灯油だろ? 服に付かなきゃ大丈夫だろ」
「うわぁ」
「バカ! 何してんだよ! 火、着いたじゃん!」
「早くタバコ消せ!」
「熱ちぃぃ!」
「水どこだ!」
「これ火傷になるじゃん!」
「熱っ、ち〇〇焼けるヤバい!」
◇◆◇◆
(このコンビニでいいか)
僕は適当なコンビニを見つけ、コンビニ前の車止めに南野さんと彼女のカバンを置く。着けていた覆面を取りゴミ箱に捨てて、しばらく歩いてから時間停止を解除した。
「ふぅ。よかったよホント」
無事に南野さんを救うことができて、この夜空のもと家路へと向かう道の中、僕は心が満たされた。
◆
「よう、
「あー」
「昨日の不戦勝だから九連敗でストップな」
翌日。いつものように学校へ行き、翔也とたわいもない会話をする。何も変わらない日常。目立つことを避ける日常。六時間目の授業の後にある帰りのホームルームが終わり、僕はまた教室掃除に取り組んだ。
(うーん、みんな掃除しないよね。っていうか、うちの班だけか)
僕は教室の床を掃きながら、少しだけ能力を解放して
「テル君?」
「ん?」
「あっ、ごめん。名前わからなくて」
声をかけてきたのは南野さんだった。彼女はカバンから何かを取り出す。
「この将棋のストラップって君のだよね?」
「あっ!」
「やっぱり」
「探してたんだ。ありがとう南野さん」
南野さんは僕にストラップを手渡し、笑顔で僕を見つめる。
「ねぇ、訊いてもいい?」
「いいけど」
「昨日の夜、何してた?」
昨日の夜――まさか……。マズい。能力を知られたら普通の生活が送れなくなる。
「昨日の夜は数学の勉強をしてたよ。あと英語の勉強も」
「ふーん、そうなんだ。夜、コンビニとか行かなかった?」
「コンビニ? 行ってないけど」
「本当?」
「うん、行ってない」
「わかった~。ありがと、じゃあね」
彼女はそう言って、笑顔のまま教室の外へ出る。僕は彼女の後ろ姿を見つめながら、昨日のことがバレていないことを切に願った。
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