第14話 祭(さい)
その祭壇の上には、呪符で厳重に封印を施された宝石箱が置いてあった。
屋根型の
象牙の柱には
その周りに集まったのは、五人の男だ。
白を基調とした雅な
これは
紺色の羽織袴に身を包んだ、
これは、帝の側近を名乗る謎の男である。
そして最後の一人は、緋色の
最も
「
「……
「我らが当主の手を
「それに、そなたがしくじるかもしれぬではないか」
「この期に及んで、経毘沼家は未だ、萩恒公爵家を侮辱するか!」
「萩恒の当主よ。虚勢を張るべきときと、そうではないときが在ろう」
温度のないその言葉に、崇詞は
相手は他家の祭る神の具象である。
しかし、ここ数回は、一人だけで行うこととなってしまっていて、実のところ、
祭で負った傷を、
それは天秤の白蛇の怒りの具象であり、天秤の白蛇が治すことを許さないからだ。
それで、諸悪の根源たる
そしてとうとう、当の
(今このとき我が身可愛さに引き籠ったとて、先はないというのに、なんと愚かな)
そも、崇詞が行うこの祭が上手くいかねば、後がないのだ。
傍系の
荒ぶる天秤の白蛇を抑える者は居なくなり、
これまでのように治癒の力を使わぬ
そうして、国が滅びてもおかしくないほどの災いの期が訪れる。
事がそこまで至れば、当の
しかし、来ていないものはどうしようもない。
目の前の宝石箱からは
(……かようにみすぼらしいこれが、帝国で一番の術師の執り行う祭か。我が国も落ちぶれたものよ)
崇詞は己を落ち着かせるために、長く息を吐く。
すると、意外な人物から声が上がった。
帝の側近を名乗る謎の男である。
「
一方のみを制する覆面頭巾の男の言に、
「立会人が、口を出すか。顔も見せぬ臆病者が」
「我は帝から立会のお役目を拝命したが故に、ここに居るのだ。この祭における要は萩恒公爵だ。萩恒の力は、心の力。それを折るような真似は控えるがよろしかろう」
鋭く冷たい視線を向けてくる覆面頭巾に、
「……手順を確認する」
祭の仕組みは、単純なものだ。
ただこれだけである。
人に奇跡の癒しを与える
しかし、
天秤の白蛇の怒りにより、代償は何倍にも膨れ上がり、
それを、
『異能の力の効用は欲しい。代償は要らぬ。であれば、狐に蛇退治をさせればよいではないか』
その男の言に、あらゆる者が乗った。
人は調子に乗り、その力で傷をいやし、不治の病から生還し、死を遠ざけた。
しかし、力を使われ、天秤を崩された白蛇の怒りは、
今やその怒りは頂点に達し、蛇の天敵である狐の手にも負えない破壊の力を生み出し、封印を打ち破ってこの世に出てこようとしている。
「この大聖堂には、目の前の宝石箱と同じ封印を施している。我ら三人がこの呪符を剥がす。そうすると、天秤の白蛇が顕現するので、公爵がこれを成敗すれば、祭は完了する」
「では、祭が完了するまで、この場からは誰も出ることができないのか」
「そうだ。故に、我らが当主はこの場に現れなかった」
「……念のために聞くが、俺が仕損じた場合はどうなる」
「我ら三人が箱に怨念を再度封じ込める手筈となっている。公爵が弱らせた後になる故、封印事態を仕損じる恐れはないであろう」
「なるほどな」
どうやら、この四人は、自分達の身の安全だけは確保しているらしい。
崇詞が
「では、始める」
崇詞は祭壇の正面に立つと、腰に佩いていた刀をすらりと抜いた。
祖先から受け継いだ情報は、全て頭に入れてある。
聡詞に引き継げるよう、紙にも残し、善治にも口伝で伝えておいた。
後は、成るように成るだけだ。
たとえ崇詞がこの祭を遂げることができなかったとしても、呪いを少しでも削ぐことで、
(善治と侍女達には、いざというときには聡詞を連れて逃げるよう、伝えてある。成長した聡詞が祭に立ち向かわず、逃げてくれると好いのだが)
『本当は、逃げてほしい?』
脳裏に浮かぶ妻の言葉に、崇詞は苦笑する。
『そのやり方は、きっと好くない。一人で抱え込む必要はないはずです』
(怖い
きっと、今の崇詞の内心を知れば、妻となった謎の女は、「自分は逃げなかったくせに」と崇詞に文句を言うのであろう。
それを思うと、なんだか愉快で、胸の内に炎が燃え上がるようだった。
(あれの母も、これで治ることだろう。……それならば、好い)
くすりと笑った崇詞に、目を見開いたのは、
そこに
「よくもまあ、ここまで我を閉じ込め続けたものよの」
おどろおどろしいその声を聞きながら、
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