心流し

Rie

― 夏光のしずく ―


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 しゃん、しゃんと

 しずくを落とす 竹のひしゃく


 あのひとの背に 朝の光が

 まるく 淡く 反射する


 濡れた石畳に

 飛沫が きらりと舞って

 それでも 会話は交わされぬまま


 ―今日も暑いですね

 

 ただ、それだけ

 それだけで

 わたしの胸は せり上がる


 足元を流れる

 涼しげな線のなかに

 言えなかった すべてが落ちてゆく


 打ち水というには

 あまりに静かな儀式だった


 すれ違う風が

 濡れた裾を揺らし

 わたしの影だけ 先に歩き出す


 消えていくのは 水か

 言葉か

 それとも 朝の幻か


 さらり、さらり

 夏のはじまりに似た

 ささやきだけが 残った



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心流し Rie @riyeandtea

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