第一章 第五話
隣り合って座ると、新しい器を用意して赤と青を少しずつ混ぜていく。
なるべく
「
どうやら
以前は、人間と半妖をきっちり分けていたと
「でも、えらいよ。こうやってわたしに聞いて自分でなんとかしようとしているんだもの」
本心から褒めると、
無邪気な表情は年相応に見えるけれど、この歳でここまでしっかりしていることには感心してしまう。
器の中に青をもう少しだけ足すと、いい色合いになってきた。
「これくらいかな。いい感じだと思う」
「いろいろ教えてくれてありがとう、
「ううん。わたしにわかることだったら、なんでも教えるから聞いてね」
「うん、そうする。じゃあ、僕も半妖のこと
「そうだなぁ……じゃあ、半妖の人たちとは、どうやったら仲よくなれる?」
具体的なことが思いつかず、ぼんやりとした質問になってしまう。申し訳なくなる
「それなら……
なんだろうと思いつつ、言われた通り右手を
「はい、これで仲よし!」
「え、これだけでいいの?」
「うん。これで、僕と
満足げに
「やっと見つけた」
振り返ると、開けっぱなしにしておいた襖の外に
「こんなところで何してるの、
途端に、放置してきた洗濯物のことを思い出した。戻ってくるまでに終わらせると言ったのに洗濯物は残ったままだし、姿が消えていたのだから
「ごめんなさい。すぐ戻る」
慌てて立ち上がると、
「僕がお願いして一緒に絵の具を作ってもらってたんだよ。
「別に怒ってるわけじゃないよ。なんかあったのかなって思っただけで……」
「見て、桔梗色ってこういう色なんだって」
「ああ、例の画家のお客さんか」
「部屋に持っていってみるね。
「ううん、わたしは戻らないと……」
断ろうとした
「いや、行ってきなよ」
「洗濯物なら、あとは俺がやっておく。だから、行ってきていいよ。どんな仕事なのか、少しはわかるかもしれないし」
客室へと向かう間に
部屋に入ると、画家の男は一心不乱に絵を描いていた。机いっぱいに広げた紙に、筆で色をのせている。
声をかけるのが憚れるほど、集中していた。けれど、じっと待っていても気づきそうにもないので、
「あの、絵の具をお持ちしました」
やはり
「ああ、この色だよ。いい色だ。ありがとう」
すると、
「新しくきてくれた人間のおねえさんに、教えてもらって作ったんです」
画家の男が
「ああ、人間の従業員さんもいらっしゃるんですね。ありがとうございます」
男は愛想のいい顔で頭を下げ、新しい絵の具に筆を付けた。桔梗色が鮮やかに紙に広がっていく。その光景に惚れ惚れとしていると、男がぽつぽつと話し始めた。
「生きている間ずっと絵を描き続けて、もし生まれ変わることがあったら絶対に違うことで食べていくんだなんて思ってたんですけどね。ここに来てもまだ絵を描き続けてるなんて、滑稽なもんです」
「……特別な絵なんですか?」
この宿は心残りがある者が辿り着く場所だ。生涯にわたって描き続けてきても、まだ心残りに思うほど描きたい絵があるということなのだろうか。
そう考えて聞いたが、男は緩く首を横に振った。
「いえ、なんでもない絵です。ただ、描きたいものを何も考えずただ無心で、子どもの頃に戻ったように描いてみたくなったんです……だから今、すごく楽しいです」
筆を握る手にはしわが刻まれているが、夢中で絵に向き合っている横顔は生き生きとしていて、無邪気だった。
しばらくて、男は筆を置いた。
完成した絵を見つめる男の顔はとても満足そうで、その手助けの一端を担えたのだと思うと
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